不法行為により、年令八年二月の男児が頭蓋骨骨折などの傷害を受けて約二週間意識不明の状態になり、その父母も、受傷後四日間にわたり不眠不休の看病を続け、四日目にはその死を覚悟するなど原判決の認定した事実関係(原判決理由参照)があつても、そのことから、ただちに、父母は、その子の生命を害された場合に比肩するかまたは右の場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けたものということはできず、自己の権利として、慰藉料を請求することはできない。
子の身体傷害についての父母の慰藉料の請求を認めた判断が違法とされた事例
民法709条,民法710条,民法711条
判旨
過失相殺における被害者の過失能力は事理弁識能力で足り、8歳2ヶ月の児童は特段の事情がない限り、狭い道路から広い道路へ出る際の注意義務について事理弁識能力を有すると解される。
問題の所在(論点)
1. 民法722条2項の過失相殺において、未成年の被害者に要求される能力の程度。 2. 8歳2ヶ月の児童が、交差点における一時停止等の注意義務について事理弁識能力を有するといえるか。 3. 被害者の父母が固有の慰謝料を請求できる要件(民法711条の類推適用)。
規範
民法722条2項の適用における被害者の過失を斟酌するには、被害者に「事理を弁識するに足る知能(事理弁識能力)」が備わっていれば足り、自己の行為の責任を判断できる「責任能力」まで備えている必要はない。具体的には、当該事故の態様に応じた危険を認識・回避すべきという社会的な要請を理解できる能力があれば足りる。
重要事実
事故当時8歳2ヶ月の児童であった被害者B1は、自転車で狭い道路(丁字路)から広い道路へ出る際、一旦停止や徐行をして安全確認をせず漫然と飛び出し、上告人の車両と衝突した。原審は、B1には交通規則を弁識する能力がなかったとして、上告人側の過失相殺の主張を排斥した。また、B1の両親(B2、B3)に対しても、被害者の受傷を理由に固有の慰謝料を認めた。
あてはめ
1. 8歳2ヶ月の児童は、特段の事情がない限り、狭い道路から広い道路へ出る際に一時停止等をして安全を確かめるべきという注意義務について、その事理を弁識する能力があったと解するのが相当である。原審は現場の交通事情や学校成績等の個別事情を考慮せず直ちに能力を否定しており、審理不尽である。 2. 被害者の両親が固有の慰謝料を請求するには、生命侵害の場合に比肩するか、それに著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けたことを要するが、原審は後遺症の有無や程度を十分に判断せず慰謝料を認めており、理由不備である。
結論
被害者B1の過失を斟酌すべきであり、また両親の慰謝料請求権についても、生命侵害に比肩する程度の苦痛の有無を再審理させるため、原判決を破棄し差し戻した。
実務上の射程
過失相殺における「過失」の意味を確定させた重要判例である。答案上は、責任能力(12歳前後)よりも低い「事理弁識能力」で足りる点を明示した上で、本判決が概ね小学校低学年(約8歳)を基準としていることを考慮し、具体的な年齢や事案の難易(道路への飛び出し等)に応じてあてはめを行うべきである。また、親の固有慰謝料については、711条類推適用の厳格な要件を論述する際に参照する。
事件番号: 昭和47(オ)212 / 裁判年月日: 昭和47年6月22日 / 結論: 棄却
責任能力がある未成年者の不法行為において、その過失の有無は、成人と同一の注意義務を標準として定めるべきである。