一 土地賃借人がその地上に建物を建て同所で新たに営業を営むことを計画していたにかかわらず、賃貸人が土地を引き渡さないため右計画を実行することができなかつたときは、賃借人には、その営むことによりうべかりし利益の喪失による損害が生じたものと推定すべきであつて、賃借人が未だ現実に営業を開始せず、またたとえ営業を開始しても必ず利益があつたとは限らないからといつて、右損害が生じなかつたものと認めるべきではない。 二 土地賃貸人が土地を引き渡さないため、賃借人がその地上に建物を建て同所で営業を営むことによりうべかりし利益を喪失したときは、右損害は、賃貸人の債務不履行による特別事情による損害となりえないものではない。 三 営業利益の喪失にいよる損害の賠償請求訴訟において、原告が、その営業とは、本件土地に店舗を建設して、そこで「北海道産の海産物を同地の生産者から直接に仕入れ、内地産の海産物はD魚市場で仕入れ、従業員は壮年の男一人女二人および老年の女一人の家族四人がこれにあたり、小僧等は必要があれば雇い入れる」という程度の規模による海産物商を営むにあつた旨を主張したときは、その主張の事実を基礎として通常の場合に予想される営業利益を算定することは不可能ではないから、損害額算定の基礎たる事実についての具体的主張を欠くものとはいえない。
一 土地賃貸人が土地を引き渡さないため右地上に建物を建て新たに営業を始める賃借人の計画が実行できなかつた場合と営業利益の喪失による損害の有無 二 土地賃貸人の土地引渡義務の不履行と賃借人の右地上に建物を建て営業を営むことによりうべかりし利益の喪失による損害との間の因果関係 三 営業利益の喪失による損害の賠償請求訴訟と損害額算定の基礎たる事実の主張の程度
民法416条
判旨
借地権侵害により借地上での新規営業利益を喪失した場合、過去の営業実績がなくても、具体的な営業計画や規模が特定されていれば、特別事情による損害(民法416条2項)として認められ得る。また、営業による利益獲得は通常の状態として推定され、これを覆す事情の立証責任は加害者側にある。
問題の所在(論点)
不法行為または債務不履行に基づく損害賠償において、実績のない新規営業の逸失利益が民法416条2項の損害として認められるか。また、その算定の基礎となる事実の具体性と立証責任の所在が問題となる。
規範
1. 借地権侵害により、その土地で将来営むはずであった新規営業の利益を失った場合、民法416条2項にいう特別の事情によって生じた損害として、相当因果関係が認められ得る。 2. 過去に当該営業の実績がない場合であっても、具体的な営業の規模や内容(仕入先、人員構成等)が主張・立証されれば、それに基づき客観的に得べかりし利益を算定することは可能である。 3. 人は営業によって利益を上げることが通例であるから、経験則上、利益の発生は推定される。これを争う者は、利益を上げ得なかったであろう特別の事情を主張・立証すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)1462 / 裁判年月日: 昭和39年6月26日 / 結論: 棄却
賃貸人たる地主は、借地人に対し賃料請求権を有するとしても、いまだ借地人から右賃料の支払を受けていないかぎり、借地権の無断譲受人に対し賃料相当の損害賠償請求ができる。
重要事実
被上告人(借地権者)は、上告人による借地権侵害(土地の不法占有等)により、本件土地に店舗を建設して海産物商を営むことができなくなったとして、得べかりし利益の賠償を請求した。被上告人は、過去に当該営業の実績はなかったが、「北海道産の海産物を直接仕入れ、家族4人で従事する」といった具体的な営業規模を主張し、鑑定によって算定された損害額(月額5,000円)を求めた。これに対し上告人は、実績のない営業利益は仮定のものに過ぎず、相当因果関係がないと争った。
あてはめ
本件では、被上告人が店舗での仕入先や家族経営の態様など、営業の規模・条件を具体的に特定しており、これに基づき鑑定を行うことで損害額を算定することが可能である(判決文からは鑑定結果の月額1万6千円強から賃料を控除して算定)。また、営業は利益を生むのが通例であるとする経験則に照らせば、被上告人が利益を上げ得たことは推定される。上告人はこの推定を覆すに足りる反証(利益を上げられなかったであろう特段の事情)を提出していないため、本件損害は特別事情による損害として相当因果関係が認められる。
結論
将来の新規営業による逸失利益であっても、具体的な事業計画が特定されていれば、特別事情による損害として賠償請求が認められる。本件では具体的な規模が主張されており、鑑定に基づく損害賠償請求を認めた原審の判断は正当である。
実務上の射程
新規事業の逸失利益(得べかりし利益)に関するリーディングケース。答案では「実績のない事業」の損害を論じる際、①計画の具体性による算定可能性、②経験則による利益発生の推定、という二段階の論理構成として活用する。特に416条2項の予見可能性の対象として、具体的な計画内容をあてはめる際に有用である。
事件番号: 昭和38(オ)26 / 裁判年月日: 昭和38年11月1日 / 結論: 棄却
(省略)
事件番号: 昭和38(オ)482 / 裁判年月日: 昭和39年5月1日 / 結論: 棄却
身体障害者福祉法第二二条第一項は、国または地方公共団体が身体障害者の売店設置許可申請に対し必ずこれを許さなければならないことを定めたものではなく、その許可、不許可、並びに許可する場合如何なる態様において許可するかは国または地方公共団体の自由な判断により決定できることを定めたものと解すべきである。
事件番号: 昭和38(オ)958 / 裁判年月日: 昭和39年7月29日 / 結論: 棄却
賃借地上の建物の譲渡に伴い、地主の承諾なくして賃借権が譲渡された場合には、地主は建物譲渡人に対する賃料請求権を失わないけれども、現実に譲渡人より右賃料の支払を受けないかぎり、譲受人に対して賃料相当の損害金の請求ができる。
事件番号: 昭和39(オ)24 / 裁判年月日: 昭和40年2月12日 / 結論: 棄却
土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求さ…