いわゆる恩給担保の場合に、債権者が、債務者から交付を受けた恩給証書を任意に債務者に返還しても、民法第五〇四条にいう「担保ヲ喪失又ハ減少シタル」ものとはいえない。
いわゆる恩給担保の場合における恩給証書の返還と民法第五〇四条にいわゆる担保の喪失または減少
民法504条,民法500条
判旨
恩給法上、恩給受領権の担保提供は禁じられており、恩給受領の委任と解除権放棄の特約を組み合わせる実質的な担保化も脱法行為として無効であるため、債権者が恩給証書等を返還しても民法504条の担保喪失には当たらない。
問題の所在(論点)
恩給受領権の実質的な担保化(委任状交付および解除権放棄特約)が民法504条の「担保」に該当するか、またその効力が認められるか。
規範
恩給法11条により恩給受領権を担保に供することは禁じられている。取引実務上、恩給証書・委任状の交付および解除権放棄の特約によって実質的に質権設定と同様の効果を狙う手法は、同条に対する脱法行為として無効である。したがって、債務者はいつでも委任を解除し、証書等の返還を請求できる性質のものであり、このような関係は民法504条にいう「担保」には該当しない。
重要事実
主債務者Dは、被控訴人(債権者)からの借入に際し、自身の恩給を担保に供するため、恩給証書および恩給受領の委任状を被控訴人に交付した。その後、被控訴人はこれらの証書および委任状をDに返還した。保証人である上告人は、債権者が「担保」を喪失させたとして、民法504条(旧法)に基づき、担保喪失の限度で保証債務の免責を主張した。
あてはめ
本件における恩給担保の実態は、恩給金の受領委任と弁済充当の合意であるが、その委任契約の解除権を放棄する特約は恩給法11条の脱法行為として無効である。そうすると、主債務者Dはいつでも委任を解除して証書等の返還を求めることができ、債権者が一方的に排他的な支配権(担保権)を有していたとはいえない。ゆえに、債権者が証書等を返還したとしても、民法504条が守ろうとする「債権者が有する有効な担保」を喪失させたことにはならない。
結論
本件の恩給担保は民法504条の担保に該当せず、債権者が証書等を返還しても保証債務は免責されない。
実務上の射程
公法上の権利で譲渡・担保化が禁止されているものについて、委任状や解除権放棄といった私法上の構成で実質的な担保化を図っても脱法行為として無効とされる。また、無効な担保を放棄・喪失しても、民法504条の適用はないことを示す。答案では「担保」の有効性や法的保護に値する権利性が欠ける場合に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和31(オ)972 / 裁判年月日: 昭和32年11月28日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債権者が担保喪失行為をしたとしても、そのことにつき債権者に懈怠の責がないと認められる特段の事情がある場合には、保証人は免責されない。 第1 事案の概要:銀行(被上告人)と債務者Dとの間で、当初から抵当権設定の予約がなされていた。その後、担保権が確定的に設定される前に担保喪失に類似する事態(詳細な経…