一 民法第五〇四条の担保には、いわゆる譲渡担保をも包含する。 二 譲渡担保の目的物が、債務者の健康保険厚生年金保険料滞納のため差押をうけた場合に、債権者が厚生年金保険法による厚生年金保険審査会に対する審査の請求または行政訴訟を提起しなかつたからといつて、それだけで、債権者に故意または懈怠があるということはできない。
一 民法第五〇四条の担保の意義 二 民法第五〇四条の故意または懈怠にあたらない事例
民法504条,厚生年金保険法(昭和25年法律47号による改正前のもの)62条,厚生年金保険法(昭和25年法律47号による改正前のもの)63条
判旨
民法504条の「担保」には譲渡担保も含まれ、同条の「故意又は懈怠」は民法上の故意又は過失と同義である。債権者が公売処分に対し審査請求や行政訴訟等の法的手段を尽くさなかったとしても、通常採るべき交渉手段を講じていれば過失は認められない。
問題の所在(論点)
譲渡担保が民法504条の「担保」に含まれるか。また、債権者が公売を阻止するために行政訴訟等の法的手段まで執らなかったことが、同条の「故意又は懈怠」にあたるか。
規範
1. 民法504条(現行504条1項)にいう「担保」には、譲渡担保も含まれる。2. 同条の「故意又は懈怠」とは、民法における故意又は過失と同義である。3. 債権者が担保を喪失したことについて過失があるか否かは、債権者が債権者として通常採るべき手段を講じたか否かによって判断される。
重要事実
債務者Dは、被上告会社に対する債務の担保として物件の所有権を移転する譲渡担保を設定し、被上告会社から無償で借り受けて使用していた。Dが保険料を滞納したため、社会保険出張所が当該物件を差し押さえ、公売に付した。被上告会社は、事務員や代表者が数回出張所に赴き、和解調書を提示して所有権を主張し差押えの解放を求めたほか、文書でも解放を請求したが却下された。その後、被上告会社は行政上の審査請求や行政訴訟の提起までは行わなかったため、保証人である上告人が、債権者の懈怠による免責を主張した。
あてはめ
被上告会社は、出張所に対し数回にわたり事務員や代表者を出頭させ、裁判上の和解調書を提示して物件が自社所有であることを証明し、差押えの解放を繰り返し求めている。さらに文書による解放請求も行っており、債権者として通常採るべき手段を講じたといえる。厚生年金保険法上の審査請求や行政訴訟の提起という手段が残されていたとしても、それらを行わなかったことをもって、担保喪失についての過失があると解することはできない。
結論
被上告会社に故意又は懈怠は認められず、保証人である上告人は民法504条による免責を受けることはできない。
実務上の射程
譲渡担保が504条の対象であることを明言した点に意義がある。また、債権者の「懈怠」の有無については、あらゆる法的手段を尽くすことまでは求められず、社会通念上「通常採るべき手段」を講じていれば足りるとする判断枠組みは、実務上の過失認定の基準として有用である。
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公正証書には担保物件として土地および建物を供した旨の記載があるのに、その作成を嘱託した委任状には単に建物を供した旨の記載があるにすぎない場合にも、真実該公正証書記載どおりに作成すべき権限を有していたのに土地の記載を脱落したものであることが明らかなときは、右瑕疵は該公正証書の無効をきたす重大なものとは解されない。