一 公職選挙法第一七三条による候補者氏名および所属政党の掲示で、候補者一名の所属政党を誤記した違法は、特段の事由のない限り、選挙の結果に異動を及ぼす虞がある。 二 参議院議員の通常選挙と補欠選挙が合併して、行われた場合に、公職選挙法第二〇五条第二項ないし第四項によつて当選に異動を生ずる虞のない者を区分するについては、通常選挙の当選に異動を生ずる虞があるかないかによつても決定すべきである。
一 公職選挙法第一七三条による候補者氏名および党派別の掲示で候補者一人の所属政党を誤記した違法と選挙の結果に異動を及ぼす虞の有無。 二 参議院議員の通常選挙と補欠選挙とが合併して行われた場合において公職選挙法第二〇五条第二項乃至第四項に基き当選に異動を生ずる虞のない者を区分する基準。
公職選挙法173条,公職選挙法174条,公職選挙法205条,公職選挙法115条
判旨
公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」とは、選挙規定の違反がなければ、現実に生じた当落等の結果と異なる結果が生じる可能性のある場合を指す。選挙管理委員会が候補者の所属党派を長期間誤記して掲示したことは、選挙の結果に異動を及ぼす可能性を否定できず、当該選挙を無効とする理由になる。
問題の所在(論点)
選挙管理委員会による候補者の所属党派の誤記掲示が、公職選挙法205条1項にいう「選挙の規定に違反」し、かつ「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に該当するか。
規範
公職選挙法205条1項に規定される「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」とは、選挙規定の違反がなかったならば、候補者の当落等の選挙結果につき、現実に生じたところと異なる結果が生じる可能性のある場合をいう。また、合併選挙(通常選挙と補欠選挙の同時執行)においては、単なる当落だけでなく、任期(6年議員か3年議員か)に異動が生じる可能性もこれに含まれる。
重要事実
事件番号: 昭和23(オ)152 / 裁判年月日: 昭和24年3月19日 / 結論: 棄却
当選訴訟において、選挙の無効を原因として当選人の当選を争うことは許されない。
昭和28年の参議院全国選出議員選挙において、栃木県佐野市選挙管理委員会は、公職選挙法173条に基づき候補者の氏名一覧表を21箇所に掲示したが、日本社会党所属の候補者(被上告人)の党派別を「日本共産党」と誤記した。この誤記は、選挙期日前10日から選挙当日の投票開始直後まで、ほぼ全期間にわたって訂正されずに放置された。被上告人は次点で落選したが、最下位当選者との得票差は全国で381票であり、佐野市での投票総数は約1万7,000票(うち社会党候補者への投票は5,300票以上)であった。
あてはめ
まず、民主主義政体において候補者の所属党派は重視されるべきであり、173条が党派の掲示を義務付けた趣旨に照らせば、本件の誤記は重大な規定違反である。次に、掲示は公衆の目につきやすい場所で長期間なされており、選挙人が誤った認識を抱いたことは否定できない。あてはめとして、次点者と最下位当選者の差が381票であるのに対し、佐野市では社会党支持層の票が5,300票以上存在した。もし正しい党派が掲示されていれば、被上告人に数百票が上積みされ、当落が逆転した可能性(異動の可能性)があるといえる。この可能性を否定する確証がない以上、同条の「虞」が認められる。
結論
本件誤記掲示は選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に該当し、佐野市における当該選挙は無効である。ただし、当落や任期に異動を生ずる可能性のない47名の当選は維持される。
実務上の射程
選挙無効訴訟における「結果に異動を及ぼす虞」の判断基準を、客観的な数値(得票差と対象地域の投票数)および違反行為の重大性(期間・場所・内容)から相関的に判断した事例である。行政側の過失が、有権者の投票行動を左右し得る抽象的な「可能性」を残す場合に、選挙の一部無効を認める実務上の指針となる。
事件番号: 昭和39(行ツ)16 / 裁判年月日: 昭和39年12月10日 / 結論: 破棄自判
一 市議会議員選挙において、公職選挙法第一七三条および第一七四条(昭和三七年法律第一一二号による改正前のもの)の規定による候補者の氏名および党派別掲示に一候補者の所属政党を無所属と誤記した違法は、原判示の事情(原判決理由参照)のもとにおいても、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものと解すべきである。 二 選挙訴訟の係…
事件番号: 昭和38(オ)1081 / 裁判年月日: 昭和39年2月26日 / 結論: 棄却
一 公職選挙法第二〇四条によつて、訴訟を提起できる選挙人は、その属する選挙区の選挙人に限られる。 二 所属選挙区以外の選挙区の選挙の効力について訴訟の提起をゆるさないと解しても、憲法第三二条に違反しない。