一 選挙人名簿に記載されている者は、その後選挙権を失つても直接請求の署名簿に署名することができる。 二 署名の意味が不明のままで直接請求の署名簿にした署名であつても、地方自治法施行令第九五条で規定する時期までに、同条に規定する方法によつて取り消されないかぎり有効である。
一 選挙人名簿に記載されその後選挙権を失つた者は直接請求の署名簿に署名することができるか 二 署名の意味が不明のままで直接請求の署名簿にした署名の効力
地方自治法74条,地方自治法74条の3,地方自治法施行令95条
判旨
地方自治法上の直接請求における署名の有効性は、選挙人名簿への記載の有無を基準に判断すべきであり、署名時に選挙権を失っていても名簿に記載がある限り有効である。また、署名内容の理解が不十分であっても、法令に定める期間内に所定の手続きで取り消されない限り、直ちにその効力を失うことはない。
問題の所在(論点)
直接請求(地方自治法76条、74条)における有効な署名の要件。具体的には、①選挙人名簿記載後の選挙権喪失が署名の効力に影響するか、②署名内容に対する認識の不備が署名を当然に無効とするか。
規範
1. 署名権者の範囲について、地方自治法74条4項(76条4項で準用)に基づき、選挙人名簿確定の日においてこれに記載された者であれば、その後に選挙権を失った者であっても有効に署名できる。2. 署名の効力について、署名する意味や理由書の内容が不明なままなされた署名であっても、直ちに無効となるものではなく、地方自治法施行令に規定された時期までに所定の方法で取り消されない限り有効である。
重要事実
上告人は、市議会の解散請求(リコール)に関し、以下の署名の無効を主張した。(1) 署名当時に選挙権を有していなかったDの署名、(2) 署名の意味が不明なまま、あるいは解散請求理由書の内容を理解せずに署名・捺印した9名の署名。原審は、これらはいずれも無効ではないと判断したため、上告人が最高裁に上告したものである。
事件番号: 昭和28(オ)856 / 裁判年月日: 昭和29年2月26日 / 結論: 棄却
地方公共団体の議会の解散請求署名簿の署名の効力に関する訴訟において、議会は当事者能力を有しない。
あてはめ
1. 直接請求の署名は、選挙や投票そのものとは異なり、その原因となるに過ぎず終局的に法律効果を生じさせるものではない。また、選挙管理委員会の審査には迅速性が求められるため、選挙人名簿という客観的基準による便宜的な規定は合理的である。2. 署名者の主観的な認識の不備(意味不明、理由の不知)については、署名後に翻意した場合等を含め、地方自治法施行令が定める手続・期間内に取り消す機会が保障されている。本件では、当該期間内に適法な取消しがなされた事実は認められない。
結論
Dの署名および内容不詳のままなされた9名の署名はいずれも有効であり、解散請求の手続きに違法はない。本件上告を棄却する。
実務上の射程
地方自治法上の直接請求手続における署名の有効性を判断する際のリーディングケース。答案上は、署名資格の形式的判断(名簿基準)と、署名の瑕疵に関する取消手続の排他性を論じる際に活用する。意思の欠缺を理由とする一般私法上の無効論を制限し、行政手続の安定性と迅速性を重視する立場を示す。
事件番号: 昭和37(オ)605 / 裁判年月日: 昭和37年12月25日 / 結論: 棄却
直接請求の署名簿そのものの効力を争うについても、地方自治法第二五五条の四の適用があり、同法第七四条の二の規定によつてのみ争訟を提起することができる。
事件番号: 昭和28(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和29年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】市町村長解職請求の署名について、請求要旨に多少の事実相違があっても、選挙人が解職の意思を持って署名した以上は詐欺による無効とはならず、また選挙管理委員会の署名有効性の決定は裁判所の司法審査に服する。 第1 事案の概要:上告人(町選挙管理委員会)に対し、町長の解職(リコール)請求がなされ、署名簿が提…
事件番号: 昭和26(オ)91 / 裁判年月日: 昭和26年12月28日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】議会解散投票の効力を争う訴訟において、議員の任期が満了した場合には、当該投票の無効を求める訴えの利益(判決を求める実益)は失われる。ただし、解散請求手続に看過し得ない重大な瑕疵がある場合、その後の投票も無効となる。 第1 事案の概要:被上告人である地方自治体の議会解散に関する賛否投票の効力をめぐり…
事件番号: 昭和28(オ)1439 / 裁判年月日: 昭和29年5月28日 / 結論: 棄却
農業委員会の委員として在職中の者を請求代表者の一人に加えてしゆう集した村長および村会議員解職請求の署名は、たとえ右の者が直接署名のしゆう集に従事しなかつたとしても、すべて法令の定める成規の手続によらない署名として無効である。