公権力の行使に当る公務員の職務行為に基く損害については、国または公共団体が賠償の責に任じ、職務の執行に当つた公務員は、行政機関としての地位においても、個人としても、被害者に対しその責任を負担するものではない。
国家賠償と賠償責任の負担者
国家賠償法1条,民法709条
判旨
行政庁の処分が無効であることの確認を求める訴えは、当該処分の対象となった組織が法令により消滅し、判決による効力の回復が不可能な場合には、訴えの利益を欠き不適法となる。また、公務員の職務行為による損害賠償については、国または公共団体が責に任ずるべきであり、公務員個人は賠償責任を負わない。
問題の所在(論点)
1. 解散処分の対象となった農地委員会が法改正により消滅した場合、当該解散処分の無効確認を求める訴えの利益は認められるか。 2. 公務員の職務行為によって損害が生じた場合、公務員個人に対して損害賠償を請求できるか。
規範
1. 処分の無効確認を求める訴えについて:当該処分の対象となった法的地位や組織が、法改正等によって既に消滅し、判決によって現状を回復し得ない場合は、特段の事情がない限り、確認の利益を欠く。 2. 公務員の職務上の不法行為責任について:公務員が職務を行うに際し、権限を濫用または過失により他人に損害を与えた場合、国家賠償法に基づき賠償責任を負うのは国または公共団体であって、行政機関としての地位にある公務員個人、または公務員個人が直接に民事上の賠償責任を負うものではない。
重要事実
熊本県知事が昭和21年11月15日に行った熊本県球磨郡D農地委員会の解散処分に対し、上告人らがその無効確認および知事個人・農地部長個人らに対する名誉毀損等を理由とする損害賠償を求めた。しかし、農地委員会は、その後の農業委員会法の施行により、経過措置期間の終了とともに消滅し、新たに農業委員会が設立されていた。
事件番号: 昭和42(行ツ)79 / 裁判年月日: 昭和45年2月17日 / 結論: 棄却
民法一八五条にいう「新権原」の発生を主張するについて、占有者は、その取得につき登記その他の対抗要件を必要としない。 (参考) 一審、札幌地裁昭和三五年(行)第七号、同年(ワ)第三〇八号 昭和四〇年九月二四日判決(訟務月報一二巻二号二六七頁)
あてはめ
1. 本件農地委員会は、農業委員会法の施行および経過的存続期間の終了に伴い、昭和26年7月20日の農業委員会成立と同時に消滅している。したがって、もはや解散処分の無効を確認しても、現状回復の余地がなく、判決を求める利益は失われている。 2. 上告人らの損害賠償請求は被上告人らの職務行為を理由とするものである。このような国家賠償の請求においては、国または公共団体が賠償責任を負うのであって、公務員が行政機関の地位として、あるいは個人として賠償責任を負う法的根拠はない。また、原審の認定によれば、本件行為が名誉を毀損した事実も認められない。
結論
1. 無効確認請求の部分は、確認の利益を欠くため却下されるべきであり、これを棄却した原判決は結果として正当である。 2. 個人に対する損害賠償請求は、責任の主体を誤った不適法なもの、あるいは理由がないものとして棄却される。
実務上の射程
行政事件訴訟における「訴えの利益」の消滅場面(対象消滅)に関する典型例。また、国家賠償法1条1項が適用される場面において、公務員個人の賠償責任を否定する判例法理(代位責任説的構成)を示すものとして、実務上、被告適格や責任主体の判断において極めて重要な意義を持つ。
事件番号: 昭和30(オ)292 / 裁判年月日: 昭和32年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分が無効であったとしても、その後に当該土地を贈与された者が農地法上の許可を得ていない場合、所有権を取得し得ないため、買収処分の無効確認及び登記抹消等を求める訴えの利益(当事者適格)を欠く。 第1 事案の概要:福島県知事は、自作農創設特別措置法に基づき、本件土地を補助参加人の所有地として…
事件番号: 昭和32(オ)18 / 裁判年月日: 昭和33年9月9日 / 結論: 破棄差戻
一 農地買収令書発付後約三年四箇月を経過した後に、買収目的地の十分の一に満たない部分が宅地であつたという理由で買収令書の全部を取り消すことは、買収令書の売渡を受くべき者の利益を犠牲に供してもなお買収令書の全部を取り消さねばならない特段の公益上の必要がある場合でないかぎり、違法と解すべきである。 二 行政処分取消訴訟の出…
事件番号: 昭和28(オ)608 / 裁判年月日: 昭和30年4月26日 / 結論: 破棄自判
【結論(判旨の要点)】真実の所有者でない者を対象とした農地買収処分は、違法ではあるが当然無効とはならない。真実の所有者が処分を知り得たのに不服申立期間を徒過した場合は、もはや訴訟でその違法を主張することは許されない。 第1 事案の概要:本件農地は、贈与により真実の所有者となった被上告人が占有・管理していたが、未登記のた…
事件番号: 昭和37(オ)1403 / 裁判年月日: 昭和39年10月20日 / 結論: 破棄自判
自作農創設特別措置法により買収農地の売渡を受けた者が当該農地の所有権を時効取得したときは、右農地の被買収者は、その買収処分の無効確認を求める訴の利益を有しない。