売買代金前渡金一〇万円の残金七万円の返還請求を、前渡金残金五万円と別途貸金二万円の支払請求に変更した場合、その変更が、始め被告の弁済金五万円を、三万円前渡金に、二万円別途貸金に合意充当したものと主張し、後に五万円全額前渡金に合意充当した旨主張を改めたことによるものであるときは、貸金請求の追加についても、請求の基礎に変更はない。
請求の基礎に変更のない事例
民訴法232条
判旨
民事訴訟における訴えの変更が「請求の基礎に変更がない」といえるためには、変更後の請求が、変更前の請求と同一の社会的事実関係に基づき、その紛争解決の場を共通にするものであれば足りる。
問題の所在(論点)
訴えの変更(民事訴訟法143条1項)において、同一の当事者間で清算の対象となっていた債権について、その充当関係や内訳の主張を変更することが「請求の基礎に変更がない」といえるか。
規範
民事訴訟法143条1項にいう「請求の基礎に変更がない」とは、新旧両請求がその基礎となる社会的事実関係において共通性を有し、従来の訴訟資料を継続して活用できる関係にあることをいう。具体的には、当事者間の合意清算を要する一連の金銭関係に基づくものであれば、請求の内訳や名目に変更があっても請求の基礎は同一であると解される。
重要事実
被上告人(原告)は当初、上告人(被告)から受けた5万円の返還について、当事者間の合意により前渡金(10万円)のうち3万円と、別途貸金2万円に充当したとして、前渡金残額7万円を請求した。しかし、原審において被上告人は、右5万円をすべて前渡金に充当したものとして、その残額5万円と別途貸金2万円の合計7万円へと請求の内訳を変更した。
事件番号: 昭和28(オ)1027 / 裁判年月日: 昭和31年12月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約解除後の損害賠償額の算定において、解除当時における目的物の時価相当額を標準として、商人である買主に通常生ずべき損害を算定することは正当である。 第1 事案の概要:木材販売業者である被上告人と、上告人との間で木材の売買契約が締結された。上告人(売主)の木材引渡義務について債務不履行が発生した…
あてはめ
被上告人の請求は、前渡金の一部返還とそれに伴う合意の際、被上告人と上告人との間で合意清算を要する関係にあった金銭上の債権に基づくものである。当初の「前渡金残金7万円」という主張から、後の「前渡金残金5万円及び貸金2万円」という主張への変更は、同一の清算対象となる債権の範囲内での内訳変更に過ぎない。したがって、請求の根底にある社会的事実関係は共通しており、請求の基礎に変更はないといえる。
結論
本件訴えの変更は、請求の基礎に変更がないものとして許容される。
実務上の射程
訴えの変更の要件である「請求の基礎の同一性」を肯定した事例である。実務上は、主要な紛争の対象が同一であれば、法的構成や細かな請求内訳の変更については、被告の防御権を不当に害しない限り、本判決の趣旨に則り柔軟に認められる傾向にある。答案上は、訴訟経済の観点から従来の訴訟資料が流用可能であることを示す際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和29(オ)902 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: 棄却
一 合意解除の場合は、民法第五四五条による原状回復義務は生じない。 二 原告(買主)が、被告(売主)の債務不履行を理由として売買契約の法定解除を主張し、民法第五四五条により、前渡代金の返還を請求している事案において、右法定解除が認められなかつた場合は、たとえ原告の否認する合意解除の事実が認められても、当該訴訟においては…
事件番号: 昭和25(オ)9 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない重畳的債務引受の事実を裁判所が認定して判決の基礎とすることは、弁論主義に違反し許されない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、売買契約の売主が上告人及び共同被告Dの2名であると主張した。これに対し、上告人は売主は自分単独であり、後に免責的債務引受がなされたと抗弁した。しか…