買収農地の売渡に際し、買収の時期において右土地の転借人としてこれを耕作していた甲が売渡手続の存在を知らなかつたため買受の申込をせず、転貸人乙が耕作者として買受の申込をしたため乙を相手方として売渡処分が行われた結果、乙は右土地の所有権を取得し、甲の耕作権は一旦消滅したが、爾後も乙は自ら右土地を耕作せず引き続き甲にこれを耕作させていた場合には、売渡処分を取り消すことにより関係人の被る不利益が特に重大であると認むべき格別の事情がない限り、たとえ、売渡処分の時から三年を経た後であつても、右土地をあらためて甲に売渡すため売渡処分を取り消すことは違法ではない。
農地売渡処分後約三年を経てなされた同処分の取消処分が適法とされた事例
自作農創設特別措置法16条,自作農創設特別措置法17条,自作農創設特別措置法18条,自作農創設特別措置法22条,同法施行令17条
判旨
行政庁が一度行った適法な売渡処分であっても、その目的が法律の趣旨に著しく反し、放置することが公益に反する場合には、相手方の不利益を考慮してもなお取消すべき公益上の必要がある限り、職権で取り消すことができる。
問題の所在(論点)
行政庁が一度行った売渡処分に客観的な違法性が認められる場合において、一定期間が経過した後に当該処分を職権で取り消すことが許されるか、その許容性と限界が問題となる。
規範
行政処分の職権取消しは、処分に違法がある場合に認められるが、法律の目的に照らして処分の維持が著しく不当であり、かつ処分を放置することによる公益上の不利益が、取消しによって関係人が被る私益上の不利益を上回る場合には、職権取消しが可能である。
重要事実
上告人は、実際には耕作していないにもかかわらず、耕作者であると称して本件土地の売渡処分を受けた。本来の耕作者である転借人Dは売渡手続を知らずに申込をしなかった。処分から約3年後に、行政庁は「耕作者を自作農化する」という自作農創設特別措置法の趣旨に反するとして売渡処分を取り消した。上告人はこの取消処分の違法を主張して争った。
あてはめ
本件売渡処分は、現実の耕作者を自作農化するという法の目的に反し、地主的地位にある者に所有権を付与したものであり、違法性が顕著である。処分から3年が経過しているが、その間に事実上・法律上の状態に特段の変動はなく、取消しにより上告人が被る不利益が重大であると認めるべき格別の事情もない。したがって、処分を放置することによる公益上の不利益は、取消しによる不利益よりはるかに重大であり、取消しの公益上の必要性が認められる。
結論
本件売渡処分の職権取消しは、公益上の必要性が私益の保護を上回るため適法である。
実務上の射程
行政処分の職権取消しの可否と限界に関するリーディングケースである。特に、信頼保護(法的安定性)と適法性の確保(公益)との比較衡量枠組みを提示しており、答案上は処分の違法性の程度、経過期間、第三者の利害、相手方の帰責性などの要素を具体的に検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和25(オ)368 / 裁判年月日: 昭和28年4月17日 / 結論: 棄却
小作農の応召のため農地の一時転貸を受けた昭和二〇年一一月二三日当時の小作人に対し、右転貸人の親戚の者で転貸人から耕作権を譲り受けた者は、いわゆる遡及買収農地の売渡を受けるについて優先するものではない。