甲のため乙所有の建物についてなされた所有権移転請求権保全の仮登記が不法に抹消された後、善意無過失で、右建物につき、丙が乙より所有権の移転を受け、丁が丙より抵当権の設定を受けて、夫々その登記を経た場合、丙および丁は、右の抹消登記の回復登記により実質上不測の損害を受けないと認められるか、またはその損害が甲の損害と比べて顧慮するに値しないと認められる場合のほかは、甲の回復登記手続を承諾する義務がないと解するのが相当である。
仮登記の抹消登記の回復登記と善意無過失の第三者の承諾義務
不動産登記法2条,不動産登記法65条
判旨
不法に抹消された仮登記の権利者は、抹消を真実と信じて善意無過失で権利を取得し対抗要件を具備した第三者に対し、特段の事情がない限り、回復登記の承諾を請求できない。
問題の所在(論点)
仮登記が不法に抹消された後、その抹消を信頼して権利を取得した第三者が現れた場合、仮登記権利者は不動産登記法上の「登記上の利害関係を有する第三者」である当該第三者に対し、承諾請求権を行使できるか。
規範
仮登記には本登記のような第三者対抗力がない。したがって、抹消登記を真実と信じ、善意無過失に正当な権利を取得して対抗要件を具備した第三者に対しては、原則として仮登記の回復手続への承諾を請求できない。ただし、第三者が回復登記により実質上不測の損害を受けないと認められるか、その損害が仮登記権利者の損害に比して顧慮に値しないと認められる「特段の事情」がある場合は、承諾義務を負う。
重要事実
被上告人が本件建物について有していた所有権移転請求権保全の仮登記が、訴外Dによる不法な手段で抹消された。その後、上告人らが本件建物の権利を取得した。被上告人は、仮登記の抹消は無効であり、仮登記が遡及的に効力を有することを理由に、第三者である上告人らに対し、仮登記回復手続への承諾を求めて提訴した。
事件番号: 昭和38(オ)1154 / 裁判年月日: 昭和39年7月24日 / 結論: その他
甲名義の所有権保存登記がなされた甲所有の建物について、二重に乙名義の所有権保存登記がなされ、次いで、甲名義の登記が不法に抹消された後に、丙が乙名義の登記に基づき右建物の所有権取得登記を経由した場合、丙は、甲名義の登記の抹消回復登記につき「登記上利害ノ関係ヲ有スル第三者」に当らない。
あてはめ
本件では、不法な抹消により仮登記は法律上消滅していないが、第三者が抹消登記を真実と信じて取引に入った場合、仮登記の対抗力の弱さを考慮すべきである。上告人らが善意無過失で権利を取得し、対抗要件を具備しているならば、被上告人は原則として承諾を請求できない。原審は上告人らの善意無過失や、上告人らが受ける損害の程度を十分に審理せずに承諾義務を認めており、審理不尽の違法がある。
結論
仮登記権利者は、善意無過失の第三者に対しては、特段の事情がない限り回復登記の承諾請求をすることができない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
仮登記回復における「登記上の利害関係を有する第三者」(不動産登記法68条等)の承諾義務の有無に関する重要判例である。仮登記の効力が限定的であることを理由に、94条2項類推適用に似た利益衡量を行い、善意無過失の第三者を保護する枠組みを示している。
事件番号: 昭和28(オ)843 / 裁判年月日: 昭和30年7月5日 / 結論: 棄却
不動産の登記簿上の所有名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務を有するものであるから、真正の所有者は、所有権に基き所有者名義人に対し、所有権移転登記の請求を為し得るものと解すのが相当である。
事件番号: 昭和46(オ)803 / 裁判年月日: 昭和47年11月28日 / 結論: 破棄差戻
甲が、乙と相通じ、仮装の所有権移転請求権保全の仮登記手続をする意思で、乙の提示した所有権移転登記手続に必要な書類に、これを仮登記手続に必要な書類と誤解して署名押印したところ、乙がほしいままに右書類を用いて所有権移転登記手続をしたときは、甲は、乙の所有権取得の無効をもつて善意・無過失の第三者に対抗することができない。
事件番号: 昭和34(オ)723 / 裁判年月日: 昭和35年12月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】所有権移転請求権保全の仮登記後、本登記がなされた場合、仮登記と本登記の間になされた処分は、本登記権利者に対して効力を有しない。また、共有不動産に関する登記の回復や抹消の請求は、保存行為として各共有者が単独で行うことができる。 第1 事案の概要:D所有の建物について、Eが所有権移転請求権保全の仮登記…
事件番号: 昭和28(オ)178 / 裁判年月日: 昭和32年6月7日 / 結論: 棄却
一 甲所有の不動産につき、乙のため所有権移転請求権保全の仮登記がなされた後に、甲が右不動産を丙に譲渡し移転登記をした場合に、乙は、丙の登記を抹消することなくして、甲に対し所有権移転登記を請求することができる。 二 甲が乙に対する債務の担保として不動産の所有権を乙に譲渡した場合に、乙のために所有権移転請求権保全の仮登記が…