議員候補者の現存する父の氏名を記載した投票であつても、その名が代々襲名され、父は永年病弱で社会的活動を行わず、その候補者は父の名で区長及び農家組合長の職務を行い、父の名は実際上その家の当主である右候補者を指称するものとして取り扱われて来、部落区長の選挙でも父の名を記載した投票は右候補者に対する投票として取り扱われていたような場合は、父の名は右候補者の通称と解すべく、父の名を記載した投票は右候補者に対する有効投票と認めるべきである。
議員候補者の現存する父の氏名を記載した投票が右候補者に対する有効投票と認められた一事例
公職選挙法68条
判旨
候補者の戸籍上の氏名とは異なる氏名が記載された投票であっても、当該記載が候補者の通称を指称するものと認められる特段の事情がある場合には、公職選挙法上の有効投票と解される。
問題の所在(論点)
候補者の父の名であり、かつ候補者自身の戸籍上の氏名ではない名称を記載した投票が、候補者本人に対する有効投票(自書記号の合致)として認められるか。具体的には、当該名称を候補者の「通称」と認定しうるかが問題となる。
規範
公職選挙法(本判決当時は旧法等の解釈を含む)における自書投票の有効性判断において、候補者の戸籍上の氏名以外の名称が記載された場合であっても、それが社会通念上当該候補者の「通称」として定着しており、実質的に候補者を指称するものと認められる特段の事情があるときは、当該投票は有効である。
重要事実
公職選挙の候補者であるD林に対し、「D吉右ヱ門」または「E吉右ヱ門」と記載された投票がなされた。D吉右ヱ門は候補者の父の名であり、父は現存していた。しかし、吉右ヱ門の名はD家の当主が代々襲名してきたものであり、父は老齢病弱で長年社会的活動を行っていなかった。一方で、候補者である林は「D吉右ヱ門」の名で区長や農家組合長の職務を遂行しており、実際上もD家の当主として当該名称で指称されることが定着していた。過去の選挙でも「吉右ヱ門」の記載は林への投票として扱われていた。
事件番号: 昭和31(オ)734 / 裁判年月日: 昭和31年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の自書式投票において、候補者の氏名の一部に誤記がある場合であっても、全候補者の氏名との照合により特定の候補者に対する投票の意思が客観的に認められるときは、当該投票は有効である。 第1 事案の概要:本件選挙において、ある投票用紙に記載された氏名の「氏」は「D」であり、「名」の二字のうち一…
あてはめ
本件では、父が現存するものの社会的活動から退いている一方、候補者林が「D吉右ヱ門」の名で公職(区長等)を務めるなど、社会的実態として当該名称が候補者を指称するものとして確立している。このように、戸籍上の名称にかかわらず、特定の名称が候補者の通称として機能しているという「特段の事情」が認められる。したがって、「D吉右ヱ門」との記載は候補者林を指称した有効な投票といえる。また、「E吉右ヱ門」との記載も、上記通称の誤記であると推認できるため、同様に有効である。
結論
本件各投票は候補者D林に対する有効投票である。したがって、これらを無効としなかった原判決に違法はない。
実務上の射程
自書式投票における「何人を記載したか」の判断基準を示す。単に戸籍上の氏名との合致のみを要求するのではなく、社会的な通称の使用実態を重視する。答案上は、他人に紛れるおそれ(混同の可能性)が低いことや、地域社会での認知度といった事実を「特段の事情」の有無として評価する際に活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)353 / 裁判年月日: 昭和27年8月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙において氏名の一部が異なる「A正」と記載された投票は、候補者「A忠一」に対する有効な投票とは認められない。 第1 事案の概要:選挙において、候補者「A忠一」が存在した。これに対し、投票用紙に「A正」と記載された投票がなされた。上告人は、当該投票が「A忠一」への有効な投票としてカウントされるべき…
事件番号: 昭和35(オ)493 / 裁判年月日: 昭和35年9月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公職選挙法上の投票の効力判定において、候補者の氏名を正確に記載していない投票であっても、その記載内容から特定の候補者を指すと客観的に認められる場合には、当該候補者に対する有効投票として認められる。 第1 事案の概要:村議会議員選挙において、被上告人(候補者)に対するものと考えられる投票の中に、「D…
事件番号: 昭和28(オ)1286 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙の投票において、特定の候補者の氏名が正確に記載されていない場合であっても、諸般の事情を考慮して当該候補者に対する投票であると合理的に認められるときは、これを有効投票と解すべきである。 第1 事案の概要:本件は選挙における投票の効力が争われた事案である。係争の投票6票について、特定の候補者Bの氏…
事件番号: 昭和35(オ)711 / 裁判年月日: 昭和35年10月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】投票用紙に候補者の氏名のほか「江」という敬称を付す記載は、公職選挙法68条5号の他事記載に該当し無効である。一方で、氏名の誤記や他候補者の氏名との混同がある場合でも、他候補者の氏名等と比較して特定の候補者に対する投票意思が認められれば有効となる。 第1 事案の概要:村長選挙の効力に関する訴訟におい…