資本金二五万円(一株の金額五〇円株式総数五〇〇〇株)の株式会社の増資による増加資本の額が金七五万円(一株の金額五〇円株式数一五〇〇〇株)である場合において、新株式五九五〇株の引受の欠缺があつても、特別の事情のない限り右引受の欠缺は取締約の引受払込の責任により補充せられるものと見るべきであつて、直ちに資本増加の無効を来すものと解すべきでない。
株式引受の欠缺と資本増加の効力
旧商法356条
判旨
新株予約の引受けに無効があっても、それが直ちに増資全体の無効を来すわけではなく、特段の事情がない限り、残余の引受け等により増資の目的を達し得る場合には、個別の引受無効を主張することが許される。
問題の所在(論点)
新株発行における一部の引受けに無効原因がある場合、常に増資全体の無効(新株発行無効)を主張しなければならないのか。あるいは、増資全体の無効を前提とせず、個別に引受けの無効のみを主張することが可能か。
規範
新株発行(増資)において一部の引受けが無効であるとしても、そのことが必然的に会社資本の充実を害し、または資本増加の目的達成を妨げるとは限らない。したがって、特段の事情がない限り、取締役等の引受払込により増資の目的を達し得ると解される場合には、増資全体の無効を理由とせずとも、個別に引受けの無効を主張することができる。
重要事実
資本金25万円(5,000株)の会社が、資本金を75万円(15,000株)増加させる増資を行った。上告人らは、そのうち5,950株(増資分の約4割弱、増資後総数の約3割弱)について引受けの無効を主張した。原審は、当該無効主張に係る株数が、増資前の発行済株式総数を超える多額なものであることから、引受欠缺が必然的に資本の充実を害し増資そのものを無効にすると判断し、増資全体の無効を主張せずに個別の引受無効を主張することは許されないとして請求を排斥した。
事件番号: 昭和29(オ)797 / 裁判年月日: 昭和31年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】取締役会の招集手続を省略するためには、全取締役(および監査役)の同意が必要であるが、その事実が認められない場合には、招集手続を欠いた取締役会決議は原則として無効となる。本判決は、招集手続省略の同意があったとの主張に対し、事実認定の観点からこれを否定した原審の判断を維持したものである。 第1 事案の…
あてはめ
本件における引受無効主張の対象は5,950株であり、増資後の総株式数から見れば約3割に相当する。しかし、この程度の割合の引受けが無効であったとしても、直ちに会社資本の鞏固(きょうこ)を害し増資の目的達成を妨げるとは限らない。特段の事情が示されない限り、他の引受人や取締役による対応等によって増資の目的を達することが可能であるため、増資全体の無効を要せずとも個別の引受無効を認める余地がある。
結論
一部の新株引受けが無効であるからといって、当然に増資全体が無効になるとは限らない。したがって、増資全体の無効を主張することなく、個別の引受けの無効を主張することは可能である。
実務上の射程
新株発行無効の訴え(会社法828条1項2号)という組織法上の構成をとるべきか、あるいは引受無効という契約法上の構成が可能かを画する。本判決は、引受無効が大量であっても直ちに発行全体の無効には繋がらないとして、個別救済の道を広げている。答案上は、発行手続の瑕疵ではなく「引受け」自体の瑕疵が争われる場面で、組織法上の安定性よりも個別事情を優先できる根拠として活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)796 / 裁判年月日: 昭和30年4月15日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】新株引受契約の一部が無効であっても、特段の事情がない限り増資(新株発行)全体の無効を来すものではない。したがって、増資無効を主張することなく、個別の新株引受契約の無効のみを主張することは許容される。 第1 事案の概要:上告人らは、株式会社Dと被上告人との間で締結された新株引受契約(増資新株1万50…
事件番号: 平成5(オ)317 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: 棄却
新株発行に関する事項について商法二八〇条ノ三ノ二に定める公告又は通知を欠くことは、新株発行差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となる。
事件番号: 昭和46(オ)396 / 裁判年月日: 昭和46年7月16日 / 結論: 棄却
株式会社の代表取締役が新株を発行した場合には、右新株が、株主総会の特別決議を経ることなく、株主以外の者に対して特に有利な発行価額をもつて発行されたものであつても、その瑕疵は、新株発行無効の原因とはならないものと解すべきである。