一 たとえ被相続人が所有財産を他に仮装売買したとしても、単にその推定相続人であるというだけでは、右売買の無効(売買契約より生じた法律関係の不存在)の確認を求めることはできない。 二 単に推定相続人であるというだけでは、被相続人の権利を代位行使することはできない。
一 推定相続人は被相続人がなした仮装売買について無効確認を求め得るか 二 推定相続人は被相続人の権利を代位行使し得るか
民法882条,民法423条,民訴法225条
判旨
推定相続人が有する相続への期待権は、現在において被相続人の個々の財産に対し権利を有するものではないため、第三者への虚偽譲渡等に対し確認の利益や債権者代位権を基礎付けることはできない。
問題の所在(論点)
推定相続人が有する「将来の相続に対する期待権」に基づき、被相続人が生前に行った虚偽の不動産譲渡について、売買無効の確認請求や債権者代位権に基づく登記抹消請求をすることが認められるか。
規範
確認の訴えの利益(即時確定の利益)は、原告の権利または法律的地位に現存する危険・不安があり、判決によりこれを除去する必要かつ適切な場合に認められる。また、債権者代位権(民法423条)の行使には、保全すべき債権の存在が不可欠である。
重要事実
被上告人は、上告人A1の推定相続人であった。A1は自己所有の本件不動産を、上告人A2と通謀して虚偽売買し、所有権移転登記を経由させた。被上告人は、自己の将来の相続権を根拠に、当該売買の無効確認と、A1に代位しての登記抹消請求を求めて提訴した。
事件番号: 昭和34(オ)1280 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産の二重譲渡において、第一の譲受人は、自らが未だ所有権移転登記を備えていない以上、第二の譲受人に対して所有権の取得を対抗することができない。これは、第二の譲受人の有する登記が有効であるか否かを問わない。 第1 事案の概要:上告人は、本件不動産を譲り受けたと主張しているが、未だその所有権取得の登…
あてはめ
推定相続人は、将来相続が開始した際に包括的に承継を行う期待権を有するに過ぎず、現在において被相続人の個別財産に権利を有するものではない。したがって、被相続人が不動産を譲渡・登記しても、推定相続人の現在の権利や法律的地位に直接の危険・不安が生じるとはいえず、確認の利益は認められない。また、被上告人はA1に対して何ら債権を有するものでもないため、債権者代位権を行使する前提を欠く。
結論
推定相続人は、被相続人の生前になされた財産処分に関し、確認の利益を欠き、また債権者代位権も行使できないため、請求は認められない。
実務上の射程
相続開始前の期待権の法的性質(単なる期待に過ぎないこと)を確認する際の基本判例である。民事訴訟法上の確認の利益の存否や、民法上の代位権の被保全債権の有無を論じる際に、期待権の微弱さを強調する文脈で使用する。
事件番号: 昭和33(オ)720 / 裁判年月日: 昭和35年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続による不動産の取得も、対抗問題(民法177条)となり得るが、相手方がその権利取得の事実を争わない場合には、登記の欠缺を理由に権利取得を否定することはできない。 第1 事案の概要:被上告人らは、共同相続を原因として本件山林の共有権を取得した。これに対し上告人は、被上告人らが共有権を取得した事実自…
事件番号: 昭和27(オ)128 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
一 真正の相続人が家督相続の回復をしない限り、真正相続人以外の第三者は、個々の特定財産についても、表見家督相続人に対し、相続の無効を理由として、その承継取得の効力を争うことはできない。 二 表見相続人が被相続人の子であるものとしてなされた家督相続につき相続の無効を主張できない者は、被相続人の妻が表見相続人の母(親権者)…
事件番号: 昭和29(オ)231 / 裁判年月日: 昭和30年1月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】民法110条の「正当な理由」が認められるためには、相手方が無権代理人に代理権があると信じたことにつき、取引上必要とされる注意を欠かないことが必要である。 第1 事案の概要:上告人Aは、被上告人の代理人と称するDとの間で、被上告人所有の土地建物を買い受ける売買契約を締結した。しかし、Dには当該売却の…