訴願裁決庁がその裁決を自ら取り消すことが違法な場合であつても、その違法は、取消処分を当然無効ならしめるものではない。
訴願裁決を裁決庁が自ら取り消した違法と取消処分の効力
農地調整法の一部改正法律(昭和22法240号)附則第3条
判旨
行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認めるべき場合を除き、適法に取り消されない限り完全にその効力を有する。
問題の所在(論点)
行政庁が一度行った裁決(準法律行為的行政庁処分)を自ら取り消して新たな裁決をすること(職権取消し)の可否、および当該取消処分に違法がある場合の処分の効力が問題となる。
規範
行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認めるべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有する(公定力)。また、訴願裁決庁が一旦なした訴願裁決を自ら取り消すことは、原則として許されない。
重要事実
被上告人がD農地委員会の裁定を不服として茨城県農地委員会に訴願を申し立てたところ、同委員会は昭和24年に一旦訴願棄却の裁決をした。しかし、同委員会は被上告人の申出により再議を行い、昭和26年に先の棄却裁決を取り消した上で、訴願の趣旨を容認する裁決(再裁決)を新たに行った。上告人は、この再裁決の効力を争った。
あてはめ
まず、訴願裁決庁が自らなした裁決を後日取り消すことは原則として許されないため、本件農地委員会が棄却裁決を取り消して容認裁決をなし直したことは違法である。しかし、行政処分の違法が直ちに無効を招くわけではない。本件において、当該取消処分(再裁決)にいまだ適法な取消しがなされていない以上、その違法が「重大かつ明白」で当然無効と解すべき事情がない限り、公定力により有効なものとして扱われる。
結論
本件裁決(再裁決)は違法ではあるが、重大かつ明白な瑕疵があるとはいえず当然無効とは認められない。したがって、適法に取り消されない限り、その効力は維持される。
実務上の射程
行政法における「公定力」の根拠および「無効と取消しの区別」に関するリーディングケースである。答案上は、処分の効力を争う場面において、違法性の承継や無効主張の可否を検討する際の前提規範として引用する。特に「重大かつ明白」という無効判断基準の定型句を提示する際に必須の判例である。
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