映画館用建物及びその附属設備の賃貸借における「雨漏等の修繕は賃貸人においてこれをなすも、営業上必要なる修繕は賃借人においてこれをなすものとする」との契約条項は、単に賃貸人の修繕義務の限界を定めただけでなく、賃借人にその営業上必要な範囲の修繕の義務を負担させた趣旨と解し得られないことはない。
修繕は賃借人においてなす旨の契約の趣旨
民法606条
判旨
賃貸借契約における修繕義務の特約は、単なる賃貸人の義務免除に留まらず、賃借人の義務として合意することも有効であり、その解釈に当たっては物件の性質や契約全体の構造を考慮すべきである。また、更新拒絶の正当事由の有無は、賃貸人・賃借人双方の必要性を具体的に比較考量して判断しなければならない。
問題の所在(論点)
1. 「営業上必要な修繕は賃借人が行う」との特約により、賃借人が賃貸人に対し積極的に修繕義務を負うと解することができるか。 2. 賃貸人が自営の必要性を主張する場合、更新拒絶の「正当事由」の存否をどのように判断すべきか。
規範
1. 賃貸借契約において、修繕義務の範囲を特定し、その一部を賃借人の負担とする特約を設けることは、契約自由の原則に基づき有効である。その際、当該特約が単なる賃貸人の義務免除を意味するのか、それとも賃借人に法的義務を課す趣旨であるかは、目的物の性質、賃料等の対価関係、管理の必要性等を総合して判断する。 2. 借家法(現・借地借家法28条)上の「正当の事由」は、賃貸人が自ら使用する必要性と賃借人の使用継続の必要性を中心に、諸般の事情を具体的に比較考量して判断しなければならない。
重要事実
賃貸人(上告人)は、映画館用建物2棟および備え付けの長椅子等の設備一切を被上告人に賃貸した。契約には「雨漏等の修繕は賃貸人が行い、営業上必要な修繕は賃借人が行う」旨の条項があった。また、賃料のほかに「減価消却金」を支払う合意もあった。賃借人が修繕を怠ったことを理由とする解除の有効性、および期間満了に際して賃貸人が自ら映画館を経営する必要があるとして主張した更新拒絶の正当事由が争われた。
あてはめ
1. 本件物件は映画館であり、設備一式を含んでいる。適切な修繕は原状維持や耐用年数延長に資し、賃貸人の利益にもなるため、賃借人の営業上の必要を賃借人の義務として合意することは「道理に合わない」とはいえない。原審は「減価消却金」の支払いを理由に義務負担を否定したが、その性質を検討せず直ちに通常取引では考えられないと断じたのは理由不備である。 2. 賃貸人は生活上の必要や、より良い施設提供という公共的観点から自営を主張している。原審が証拠に基づかず「不当な利益追求」と断じ、双方の使用の必要性を具体的に比較考量しなかったのは、正当事由の判断基準を誤り、判断を遺脱したものである。
結論
原判決を破棄し、差し戻す。修繕義務の特約が賃借人の法的義務を定めたものか、また更新拒絶に正当事由があるかを再度審理させる必要がある。
実務上の射程
修繕義務の特約について、単なる賃貸人の義務免除(免責的特約)か、賃借人の積極的義務(義務負担特約)かの解釈手法を示す。また、正当事由の判断における具体的比較考量の必要性を強調しており、単なる主観的意図の否定ではなく、客観的事実に基づいた必要性の衡量が必要であることを示唆している。
事件番号: 昭和27(オ)446 / 裁判年月日: 昭和29年1月22日 / 結論: 棄却
借家法第一条の二にいわる「正当の事由」とは、賃貸借当事者双方の利害関係その他諸般の事情を考慮し、社会通念に照し妥当と認むべき理由をいい、賃貸人が自ら使用することを必要とする一事により、直ちに「正当の事由」ありとはいえない。