一 夫婦がその一方甲の有責不法な行為によつて離婚のやむなきに至つたときは、その行為が必ずしも相手方乙の身体、自由、名誉等に対する重大な侵害行為にはあたらない場合でも、乙は、その離婚のやむなきに至つたことについての損害の賠償として、甲に対し慰藉料を請求することができる。 二 前項の場合において、乙が甲に対し、財産分与請求権を有することは、慰藉料請求権の成立を妨げるものではない。
一 離婚と慰藉料請求権 二 離婚の場合における慰藉料請求権と財産分与請求権との関係
民法709条,民法710条,民法768条,民法771条
判旨
離婚に伴う慰謝料請求権と財産分与請求権は、その性質を異にする別個の請求権であり、権利者は両者を選択して行使することが可能である。ただし、財産分与の額を定めるに際しては、慰謝料支払義務の発生原因となった事情を考慮することができる。
問題の所在(論点)
離婚の際に認められる財産分与請求権と、離婚原因を作った有責配偶者に対する慰謝料請求権との関係が問題となる。特に、財産分与制度が存在することを理由に、慰謝料請求が制限されるか、あるいは両者が排他的な関係にあるかどうかが争点となった。
規範
離婚における財産分与請求権(民法768条)は必ずしも相手方の有責性を要件としないのに対し、離婚慰謝料請求権(民法709条、710条)は、相手方の有責不法な行為により離婚を余儀なくされたことへの損害賠償を目的とする。両請求権は本質を異にするため、権利者は一方を選択して行使できる。なお、財産分与の額及び方法を定める際には一切の事情を考慮すべきであり、その中には慰謝料発生原因たる事情も含まれる。
重要事実
被上告人(妻)と上告人(夫)の離婚原因は、主として夫の母による妻への冷酷な言動にあった。夫は夫としての破局防止努力を怠っただけでなく、むしろ母の言動に追随する態度をとっていた。妻は、財産分与を請求することなく、離婚の責任が夫にあるとして、不法行為に基づき離婚に伴う慰謝料のみを請求した。これに対し夫側は、現行法上は財産分与制度があるため、身体や自由等への重大な侵害がある場合に限って慰謝料請求が認められるべきだと主張して争った。
あてはめ
本件において、夫は母の不当な言動に追随しており、単なる不作為にとどまらない有責不法な行為が認められる。妻は財産分与を別途得ておらず、本訴において慰謝料のみを求めている。財産分与請求権と慰謝料請求権は別個の制度であるから、財産分与による清算が行われていない以上、有責な夫に対して慰謝料を請求することは当然に許容される。身体や名誉に対する重大侵害がある場合に限定すべき理由もない。
結論
離婚に伴う慰謝料請求は、財産分与請求権の有無にかかわらず認められる。本件では夫に離婚の責任があるため、妻による慰謝料請求を認容した原判決は妥当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
実務上、離婚慰謝料と財産分与の関係を整理する際の基礎となる判例である。答案上は、両請求権の併存を認めつつ、財産分与において慰謝料的要素を考慮できる(慰謝料を含めた財産分与がなされた場合は別途の請求が制限される)という相互補完的な関係として論じる。二重の補填を避けるための調整原理として、財産分与における「一切の事情」の考慮に言及する際に活用する。
事件番号: 昭和27(オ)1010 / 裁判年月日: 昭和29年3月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】上告理由が事実誤認や単なる訴訟法違反の主張に留まる場合、民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の重要な主張に該当しない。また、原審の認定事由が第一審の慰謝料額を減額すべき理由を含まない限り、金額の妥当性は維持される。 第1 事案の概要:第一審が被告に対し慰謝料の支払いを命じた事案において、上告人…
事件番号: 昭和32(オ)463 / 裁判年月日: 昭和35年2月2日 / 結論: 棄却
婚姻事件においても、証拠調の限度は、裁判所が既に得た心証の程度により自由にこれを定めることができ、必ずしもつねに職権による当事者本人尋問の施行を要するものではない。
事件番号: 昭和30(オ)899 / 裁判年月日: 昭和32年4月11日 / 結論: 棄却
妻が有効に離婚が成立したものと信じて、他の男子と婚姻をなした後、先夫から前婚についての離婚無効確認および後婚についての婚姻取消の訴を提起せられ、右各訴はいずれも妻の敗訴に確定した場合であつても、前婚につき、婚姻を継続し難い重大な事由があることを理由として、妻が離婚の訴を提起することを妨げるものではない。