物品購入を委託された者が、その代金として交付を受けた金員を他に流用費消しても、右費消行為をもつて不法行為にあたるものとはいえない。
委託の趣旨に反する受託金の費消と不法行為の成否
民法709条
判旨
不法原因給付に当たる金員の交付がなされた場合であっても、受領者がその金員を本来の目的以外に費消する行為は、当然には民法709条の不法行為を構成しない。
問題の所在(論点)
不当利得返還義務(民法703条)の成否が民法708条の不法原因給付に抵触して問題となる場面において、受領者が受託した金員を別目的で費消する行為が、別途民法709条の不法行為を構成するか。
規範
不法な原因のために給付をした者は、原則としてその給付したものの返還を請求することができない(民法708条)。この趣旨は、法が自ら不法な行為に関与した者を援助しないという点にある。したがって、不法原因給付の返還義務(不当利得)が否定される関係性においては、その給付物の費消行為を捉えて別途不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を認めることは、実質的に返還を認めるのと同義となり、同条の趣旨を没却するため、特段の事情のない限り不法行為は成立しない。
重要事実
上告人は、被上告人Bに対し、種油の購入を委託し、その代金として5万円を交付した。しかし、被上告人らは共謀し、当該代金を種油の購入に使用せず、自らが役員を務める有限会社の職員の解雇手当や給料等の支払に充当して費消した。これに対し、上告人は被上告人らに対し、不法行為による損害賠償を求めて提訴した。
あてはめ
本件において、上告人が被上告人に交付した金員が不法原因給付に該当するか否かの判断(民法708条の解釈)については論旨の前提となっているが、仮に被上告人Bに不当利得による金員返還義務が発生し得る余地があるとしても、被上告人らが共謀して当該金員を会社の経費等に費消した行為自体は、民法上の不法行為に当たるとは換言できない。不法原因給付に関連して生じた利得の費消は、給付者に対する新たな権利侵害とは評価されないためである。
結論
被上告人らの費消行為は不法行為を構成せず、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
不法原因給付の反射的効果として受領者に所有権が帰属するという判例法理(最判昭45・10・21等)の前段階の判断として、返還請求の脱法手段としての不法行為構成を封じる趣旨で活用される。答案上は、708条の適用がある場合に、不当利得のみならず不法行為に基づく請求も排斥される根拠として短く引用するべき判例である。
事件番号: 昭和26(オ)581 / 裁判年月日: 昭和28年9月22日 / 結論: 棄却
不法原因給付の返還の特約は有効である。
事件番号: 平成31(受)606 / 裁判年月日: 令和2年4月7日 / 結論: その他
強制執行の申立てをした債権者が,当該強制執行における債務者に対する不法行為に基づく損害賠償請求において,当該強制執行に要した費用のうち民事訴訟費用等に関する法律2条各号に掲げられた費目のものを損害として主張することは許されない。 (補足意見がある。)