すでに死亡したA幸雄の氏名を記載した投票を候補者A義雄に対する有効投票と認めなくても、違法ではない。
すでに死亡した著名な人物の氏名で候補者の氏名と類似する氏名を記載した投票の効力
公職選挙法68条
判旨
公職選挙法上の有効投票の判定において、既に死亡した者の氏名と同一の記載がなされた投票は、客観的に候補者以外の特定人を表示したものと認められる事情がある場合には、当該候補者への有効投票とは認められない。死亡の事実が有権者に周知されていない等の事情がある場合、死亡者への投票の意図を否定できず、候補者への投票と確認できない限り無効となる。
問題の所在(論点)
公職選挙法における有効投票の判定(何人をも表示しない投票の禁止)に関連し、候補者以外の特定人(特に死亡者)と同姓同名の記載がなされた投票を、当該候補者への有効投票として認めることができるか。
規範
投票の有効性は、記載内容が候補者の氏名を表示したものと認められるか否かにより判断される。候補者の氏名と同一の氏名を有する死亡者が存在する場合、死亡した者の氏名を記載した投票を直ちに死亡者に対するものと断定する不動の原則はないが、記載された氏名が候補者以外の特定人を表示したものと推断すべき強い事情が認められる場合には、当該候補者への有効投票とは認められない。候補者への投票であると確認できない(いずれか判然としない)場合は、無効とするほかない。
重要事実
選挙において、上告人(候補者)に対し、「A幸雄」と記載された投票がなされた。しかし、「A幸雄」は上告人とは別の実在した人物の氏名であり、当該人物は選挙当時には既に死亡していた。原審は、この「A幸雄」という記載が死亡した同氏名人を表示したものと推断すべき事情があるとし、上告人に対する有効投票とは認めず、無効と判断した。上告人は、死亡した者への投票は推定されるべきではないとして、判例違反を主張して上告した。
あてはめ
本件では「A幸雄」という記載が候補者ではない死亡者の氏名と完全に一致している。一般に、相当著名な人物であっても有権者がその死亡を不知または忘却し、生存していると誤認して投票することは経験則上あり得る。本件選挙当時、A幸雄の死亡が周知徹底していた証拠はなく、有権者が死亡したA幸雄に投票する意図であった可能性を否定できない。したがって、本件投票が上告人に対するものか死亡者に対するものか判然としない以上、上告人に対する有効投票とは認められない。
結論
本件投票を上告人への有効投票と認めず無効とした原審の判断は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
自書式投票における「他事記載」や「候補者以外の氏名」の有効性判定に活用できる。特に候補者と同姓同名の者が存在(または過去に存在)する場合、客観的にどちらを指すか判然としない投票は無効となるという、事実認定の枠組みとして重要である。
事件番号: 昭和34(オ)20 / 裁判年月日: 昭和34年2月20日 / 結論: 棄却
一 「北條D一」、「北条D一」と記載された投票は候補者上条B一の氏名を誤記したものと解すべきである。 二 参議院全国区選出議員選挙で、「大西」と記載された投票は候補者小西Aの姓を誤記したものとは認められない。 三 参議院議員の通常選挙で、地方区選挙の投票用紙に全国区選挙の候補者氏名を記載した投票は無効である。
事件番号: 昭和35(オ)806 / 裁判年月日: 昭和36年9月14日 / 結論: 破棄差戻
一 「ヤナセ」と記載された投票は、候補者長瀬に対する有効投票とは認められない。 二 「柳瀬」「成瀬」と記載された投票は、候補者長瀬に対する有効投票とは認められない。 三 「長井」「ナガイ」「ながい」と記載された投票は、候補者長瀬に対する有効投票とは認められない。