一 行政処分の無効確認を求める訴は、処分行政庁を被告として提起することができる。 二 農地所有者が死亡し家督相続によつて農地の所有権が相続人に移転した場合において、登記簿上の所有者たる被相続人宛の買収令書が相続人の親族の者に交付せられ同人がこれを右相続人に送付したときは、相続人が買収令書を返送しても、右買収令書による農地買収処分は当然には無効ではない。
一 処分行政庁を被告として行政処分無効確認を求める訴の適否 二 登記簿上の名義人に対してなされた農地買収処分の効力
行政事件訴訟特例法1条,行政事件訴訟特例法3条,自作農創設特別措置法6条,自作農創設特別措置法7条,自作農創設特別措置法9条,民法177条
判旨
行政処分に重大な瑕疵がある場合であっても、出訴期間の制限を設けた法の趣旨に鑑み、特段の事情がない限り、出訴期間経過後はその処分の違法を理由として無効を主張することはできない。
問題の所在(論点)
真の所有者ではなく死亡者を名宛人としてなされた農地買収処分について、自創法所定の出訴期間を経過した後に、その違法(無効)を主張して争うことができるか。行政処分の公定力・確定力と無効な処分の関係が問題となる。
規範
行政事件において、短期間の出訴期間が定められているのは、行政処分に関する争訟を速やかに解決し、法的安定性を図る趣旨に基づく。したがって、出訴期間を徒過した後は、当該処分が重大な瑕疵を有する場合であっても、原則としてその違法を主張して処分の効力を争うことは許されない。ただし、処分が当然無効と解されるべき特段の事情がある場合はこの限りではないが、処分の存在を知り得べき状態にあったのであれば、期間経過による確定力を認めるべきである。
重要事実
被上告人の養父Dの所有地について、熊本県知事がDの死亡後にDを名宛人として農地買収処分および売渡処分を行った。被上告人は家督相続により当該土地の所有権を取得していたが、買収令書は被上告人の代人とみなされた親族Eに交付され、後に被上告人へ送付された。被上告人は処分を知り得べき状態にありながら、自作農創設特別措置法(自創法)に定める異議、訴願、出訴期間内の取消訴訟の提起を一切行わなかった。その後、被上告人が当該処分の無効確認を求めて提訴した。
事件番号: 昭和36(オ)1072 / 裁判年月日: 昭和37年7月12日 / 結論: 棄却
所有者の代表者の表示を誤つてした農地買収処分も無効ではない。
あてはめ
本件買収処分は死亡者を名宛人としており違法である。しかし、自創法が短期間の出訴期間を定めたのは、農地改革を急速に実現し法的混乱を避ける趣旨である。事実関係によれば、買収令書は被上告人の元に届けられており、被上告人は処分がなされたことを「知り得べき状態」に置かれていたといえる。このような状況下で、法が定める不服申立手続を何ら執ることなく出訴期間を徒過した以上、たとえ手続に瑕疵があっても処分の効力を失わせることはできない。判旨の文脈上、本件の瑕疵は出訴期間の制限を排除するほどの特段の事情(当然無効)には当たらないと解される。
結論
出訴期間を徒過した後は、本件のような瑕疵を理由として買収処分の無効を主張することはできず、当該処分は有効なものとして取り扱われる。したがって、被上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
本判決は、行政処分の瑕疵が「無効」か「取消しうる」かという区別において、特段の事情がない限り出訴期間による制限を重視する立場を示す。答案上では、重大かつ明白な瑕疵の理論を論ずる際、法的安定性の観点から出訴期間徒過後の争訟を制限する根拠として引用できる。ただし、現代の通説的見解(重大明白説)との整合性には注意を要する。
事件番号: 昭和27(オ)1132 / 裁判年月日: 昭和32年9月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地の買収処分において、登記簿上の名義人を所有者としてなされた処分は、異議申立や出訴期間内に行われた争訟によって是正されない限り、直ちに当然無効とはならない。 第1 事案の概要:政府が自作農創設特別措置法に基づき農地の買収処分を行った際、真実の所有者ではなく登記簿上の名義人を相手方として買収計画お…
事件番号: 昭和36(オ)1022 / 裁判年月日: 昭和37年6月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政処分が当然無効とされるためには、その瑕疵が重大かつ明白であることを要する。農地でないことが客観的に明白な土地を農地と誤認してなされた買収処分は、その瑕疵が重大かつ明白であり、当然無効である。 第1 事案の概要:本件土地は、かつては耕作されていたが、地盤沈下や台風による堤防決壊の影響で海水が浸入…
事件番号: 昭和36(オ)732 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 棄却
一 農地買収の時期が売渡の時期より後であつても、買収処分は無効とはいえない。 二 農地の買収、売渡計画の買収、売渡の時期の変更につき公告手続を経ないでした買収処分も無効ではない。
事件番号: 昭和25(オ)280 / 裁判年月日: 昭和29年1月22日 / 結論: 棄却
農地の登記簿上の所有名義人の家督相続人が農地をその妹に贈与した場合において、右家督相続人を所有者として定めた買収計画及び同人を所有者とする買収令書による買収処分は法律上当然に無効ではない。