一 裁判所が証拠決定にもとずく証拠調を施行せず、また右決定の取消もしないで口頭弁論を終結しようとするにあたり、申請当事者においてこれに対し何ら異議を述べなかつたときは、当該証拠申請を放棄したものと解するのを相当とする。 二 賃貸人の提起した家屋明渡の訴の訴状に、賃貸借が解約申入によつて終了した経過を敍述し、その終了にかかわらず、賃借人が依然右家屋を占有しているから、所有権にもとずき明渡を求める旨記載されているときは、右訴の訴訟物は所有権にもとずく返還請求権にほかならないけれども、特別の事情のないかぎり、右記載自体、若しさきの解約申入が効力を生じていないならば、改めて解約申入をする旨の意思表示を暗黙に包含するものと解すべきである。
一 証拠申請を放棄したものと認むべき一事例 二 所有権にもとずく家屋明渡の訴の提起は賃貸借解約の申入となり得るか
民訴法第2編第3章第1節,民法617条1項,借家法3条1項
判旨
賃貸借契約の終了を主張して建物の返還を求める訴状には、特段の事情がない限り、先行する解約申入が効力を生じていない場合に備えて、改めて解約を申し入れる黙示の意思表示が包含される。
問題の所在(論点)
賃貸借契約の終了(解約申入の存在)を前提として所有権に基づく返還請求を行う訴状の送達により、新たな解約申入の意思表示がなされたと認められるか(黙示の意思表示の有無)。
規範
賃貸人が所有権に基づき建物の返還を求める訴状において、賃貸借が解約申入により終了した経過を叙述し、終了後の不法占有を理由に請求している場合、特段の事情がない限り、当該訴状には、仮に先行する解約申入が無効であったとしても改めて解約する旨の黙示の意思表示が包含されていると解するのが相当である。
重要事実
賃貸人(上告人)が、既に解約申入により賃貸借契約が終了したことを前提として、賃借人に対し所有権に基づく建物明渡請求訴訟を提起した。原審は、訴状に「不法占有」を理由とする明渡請求である旨が明記されていることを理由に、当該訴状の送達による新たな解約申入の効果を否定した。
事件番号: 昭和25(オ)445 / 裁判年月日: 昭和26年11月27日 / 結論: 棄却
一 賃貸借の解約申入をしたことを原因とする家屋明渡請求事件において、訴提起前の解約申入の事実が認められないとしても、訴の提起により解約申入の事実を認めることは差支えない。 二 右の場合、訴の提起に基き解約の効力を認めても、当事者の主張しない事実につき判断したものということはできない。
あてはめ
訴状には賃貸借が解約申入により終了した経過が具体的に叙述されており、賃貸人が当該賃貸借関係の存続を欲しない意思であることは明らかである。したがって、先行する解約申入が効力を生じていない場合に備え、訴状送達をもって改めて解約の意思を表示する意図が含まれると解するのが当事者の合理的意思に合致する。原審が「不法占有を理由としている」という一事をもってこれを排斥したのは失当である(ただし、本件では別途正当事由が欠けているため、結論に影響しない)。
結論
訴状の送達により、改めて解約の意思表示がなされたものと解するのが相当である。
実務上の射程
賃貸借終了を理由とする明渡請求において、先行する解約申入の効力や正当事由の具備時期が争点となる際、訴状送達時を基準とする新たな解約申入を認めるための根拠として活用できる。
事件番号: 昭和40(オ)9 / 裁判年月日: 昭和40年6月18日 / 結論: 棄却
原告所有地上に被告が権限なく建物を存置してこれを占有していることを理由として建物収去土地明渡を求める訴状が被告に送達されたときは、特別の事情がないかぎり、原被告間にもし当該土地賃貸借契約が存在するならば、これを解約する旨の意思表示がなされたものと解することができる。
事件番号: 昭和41(オ)431 / 裁判年月日: 昭和42年12月22日 / 結論: 棄却
訴状をもつて賃貸借契約の解約申入れをした事実および右解約申入れによる賃貸借契約終了の効果の発生を主張し、その後において右主張を撤回したからといつて、右解約申入れがされた事実までが消滅するものではなく、さらにその後において再度右主張をすることができる。
事件番号: 昭和36(オ)73 / 裁判年月日: 昭和37年5月31日 / 結論: 棄却
賃貸家屋明渡を求める調停の申立がなされたときは、特別の事情の認められない限り、これによつて家屋賃貸借の解約の申入れの意思表示がなされたものと解するものを相当とする。