一 賃貸借の解約申入をしたことを原因とする家屋明渡請求事件において、訴提起前の解約申入の事実が認められないとしても、訴の提起により解約申入の事実を認めることは差支えない。 二 右の場合、訴の提起に基き解約の効力を認めても、当事者の主張しない事実につき判断したものということはできない。
一 賃貸借の解約申入を原因とする家屋明渡請求の訴と訴の提起による解約の申入 二 右の請求事件において訴の提起により解約の効力を認めることの可否
借家法3条,民訴法186条
判旨
賃貸借の解約申入れを原因とする建物明渡請求訴訟において、訴状による請求の中には解約の意思表示が包含されると解すべきであり、訴状送達後に法定期間が経過すれば解約申入れの効力が生じる。
問題の所在(論点)
訴訟提起前に有効な解約申入れの事実が認められない場合であっても、明渡請求訴訟の提起自体に解約申入れの意思表示が含まれると認め、訴訟継続中に法定期間が経過することによって解約申入れの効力を認めることができるか。
規範
賃貸借契約の解約申入れを原因として建物の明渡しを請求する訴訟が提起された場合、賃貸人は契約存続を欲しない意思が明白である。したがって、当該訴訟の提起自体に解約の意思表示が包含されていると解するのが相当である。この場合、訴状の送達等により解約の意思表示が到達したと認められるときは、その時から借家法(現行の借地借家法)所定の期間を経過することによって、解約申入れの効力が発生する。
重要事実
賃貸人(被上告人)が、賃借人(上告人)に対し、家屋の賃貸借契約の解約申入れをしたことを理由として建物の明渡しを求めた。原審において、訴訟提起以前に有効な解約申入れがあった事実は証拠上認められなかったが、原判決は訴訟提起をもって解約申入れがあったものと扱い、明渡請求を認容した。これを不服として賃借人側が上告した。
あてはめ
被上告人が本件家屋の明渡しを請求している事実に鑑みれば、被上告人が賃貸借関係の存続を欲しない意思は客観的に明白である。そのため、本件明渡請求の中には自ら解約の意思表示を包含するものと認められる。訴状の送達時を基準として、借家法所定の期間が経過した時点で、他に解約申入れの効力を妨げる事由がない限り、有効な解約申入れがあったものと評価できる。
結論
本訴明渡請求の中には解約の意思表示が包含されている。したがって、本訴提起から借家法所定の期間を経過したときは、有効な解約申入れがあったものとして裁判をなすべきである。明渡請求を認めた原判決は正当である。
実務上の射程
賃貸借の終了を理由とする明渡請求において、事前の通知に不備があった場合や通知の立証が困難な場合に、訴状の送達を解約申入れの意思表示と構成する際の根拠となる。ただし、正当事由(借地借家法28条)の判断基準時は、訴状送達時から期間経過時までの事情が考慮される点に留意が必要である。
事件番号: 昭和40(オ)9 / 裁判年月日: 昭和40年6月18日 / 結論: 棄却
原告所有地上に被告が権限なく建物を存置してこれを占有していることを理由として建物収去土地明渡を求める訴状が被告に送達されたときは、特別の事情がないかぎり、原被告間にもし当該土地賃貸借契約が存在するならば、これを解約する旨の意思表示がなされたものと解することができる。
事件番号: 昭和41(オ)431 / 裁判年月日: 昭和42年12月22日 / 結論: 棄却
訴状をもつて賃貸借契約の解約申入れをした事実および右解約申入れによる賃貸借契約終了の効果の発生を主張し、その後において右主張を撤回したからといつて、右解約申入れがされた事実までが消滅するものではなく、さらにその後において再度右主張をすることができる。
事件番号: 昭和36(オ)73 / 裁判年月日: 昭和37年5月31日 / 結論: 棄却
賃貸家屋明渡を求める調停の申立がなされたときは、特別の事情の認められない限り、これによつて家屋賃貸借の解約の申入れの意思表示がなされたものと解するものを相当とする。