一 行政事件訴訟特例法第一〇条第二項本文が、行政処分の執行停止について一定の制限を設けているからといつて、同条項は、憲法によつて裁判所に与えられた行政事件審判権を侵犯する違憲の法律とはいえない。 二 民訴第四一九条の二第二項が憲法に違反するとの主張は、適法な同条の抗告理由でない。
一 行政事件訴訟特例法第一〇条第二項本文の規定の合憲性 二 特別抗告の理由として民訴第四一九条の二第二項が憲法に反するとの主張の適否
行政事件訴訟特例法10条2項,憲法76条,民訴法419条ノ2
判旨
行政事件訴訟特例法10条2項(現行行訴法25条2項)の「償うことのできない損害」とは、原状回復不能な損害のみならず、金銭賠償不能な損害も含む。農地買収計画に基づく土地所有権の移転は、金銭賠償や原状回復が可能であるため、原則として同損害には当たらない。
問題の所在(論点)
行政事件訴訟における執行停止の要件である「償うことのできない損害」(現行行政事件訴訟法25条2項の「重大な損害」の前身)の意義、および土地の買収・譲渡がこれに該当するか。
規範
「償うことのできない損害」とは、原状回復不能の損害のみを指すのではなく、金銭賠償不能の損害を意味する場合もある。裁判所は、事案に応じいずれかの趣旨に解して、請求保全の必要性があれば処分の執行を停止する。
重要事実
特別抗告人は、国が農地買収計画に基づき取得した土地について農地買収不服の訴を提起した。これに付随して、国が当該土地を他人に売り渡す等の処分を行うことを防ぐため、行政事件訴訟特例法10条2項に基づく執行停止を申し立てた。原審は、執行により償うことのできない損害が発生するとは認められないとして申立てを却下した。
事件番号: 昭和25(ク)75 / 裁判年月日: 昭和25年9月12日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が抗告に対する裁判権を有するのは、法律で特に許容された場合に限定され、民事事件においては、原決定の憲法判断の不当を理由とする抗告(旧民訴法419条の2)のみが適法な抗告として認められる。 第1 事案の概要:抗告人等が、最高裁判所に対して抗告を申し立てた事案。抗告理由は、原決定における憲法…
あてはめ
本件において、仮に処分の執行により土地所有権の移転が行われたとしても、それによって生じた損害は金銭で賠償することが可能である。また、特別の事情がない限り、後に原状に回復することも不可能ではない。したがって、農地買収処分の執行によって、直ちに「償うことのできない損害」が生ずるものとは認められない。
結論
本件土地の執行停止申立てを却下した原決定は正当である。特別抗告を棄却する。
実務上の射程
現行の行政事件訴訟法25条2項の「重大な損害」の解釈においても、損害の回復困難性が中核的な要素となる。本判決は、単なる財産権上の損害(土地所有権の移転等)については、金銭賠償が可能である限り「償うことのできない損害」には当たらないとする実務上の基本的な判断基準を示している。
事件番号: 昭和25(ク)57 / 裁判年月日: 昭和25年7月21日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が民事事件の抗告について裁判権を有するのは、原決定に憲法違反の判断が含まれる場合に限られ、通常の再抗告規定は適用されない。 第1 事案の概要:抗告人等が、下級審の決定に対して最高裁判所へ抗告を申し立てた事案。抗告状の記載によれば、その抗告理由は原決定における憲法適合性の判断を不当とするも…
事件番号: 昭和27(マ)8 / 裁判年月日: 昭和28年3月9日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】行政事件訴訟法25条2項に基づく執行停止の申立ては、取消訴訟の対象となっている処分自体に対してなされるべきものであり、本案訴訟で争われている処分とは別個の行政処分の執行停止を求めることは認められない。 第1 事案の概要:申立人は、山梨県知事による未墾地買収計画に関する訴願裁決の取消訴訟(本案)を提…
事件番号: 昭和24(ク)87 / 裁判年月日: 昭和25年2月3日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】行政処分の執行停止の要件該当性の判断は、法律の解釈適用の問題にすぎず、当然には憲法違反の問題を生じない。 第1 事案の概要:抗告人は、原審による行政処分の執行停止決定に対し、地方公共団体の権能を剥奪し公共の福祉を無視するものであるとして、憲法94条違反を理由に特別抗告を申し立てた。 第2 問題の所…
事件番号: 昭和27(ク)109 / 裁判年月日: 昭和28年1月16日 / 結論: 棄却
行政事件訴訟特例法第一〇条第二項但書の内閣総理大臣の異議は、同項本文による裁判所の執行停止決定前に述べられることを要し、その後に述べられた異議は不適法である。