行政事件訴訟特例法第一〇条第二項但書の内閣総理大臣の異議は、同項本文による裁判所の執行停止決定前に述べられることを要し、その後に述べられた異議は不適法である。
行政事件訴訟特例法第一〇条第二項但書による内閣総理大臣の異議の時機
行政事件訴訟特例法10条2項
判旨
行政事件訴訟特例法10条2項但書(現行行訴法27条)に基づく内閣総理大臣の異議は、裁判所による執行停止の決定がなされる以前に述べられることを要する。決定後になされた異議は不適法であり、これを前提とする抗告も認められない。
問題の所在(論点)
行政事件訴訟特例法10条2項但書(現行行訴法27条)に基づく内閣総理大臣の異議は、裁判所が執行停止の決定をした後であっても有効に述べることができるか、その時期が問題となる。
規範
行政事件訴訟特例法10条2項(現行行訴法27条)において、内閣総理大臣の異議が述べられたときは裁判所は執行停止決定を「することができない」旨規定されている。この文言の趣旨に鑑みれば、当該異議は裁判所による執行停止決定がなされる以前に述べられるべきものである。したがって、裁判所の決定後になされた異議は不適法であり、執行停止の効力を左右するものではない。
重要事実
青森県議会により除名処分を受けた県議会議員Dが、当該処分の取消訴訟を提起するとともに執行停止を申し立てた。原審(地方裁判所)は昭和27年3月15日に執行停止の決定を下した。その後、同年5月16日になって内閣総理大臣が同法10条2項但書に基づき、地方議会の自律性維持等を理由に異議を述べた。これに対し、県議会側は総理大臣の異議が述べられた以上、執行停止決定を取り消すべきであるとして抗告した。
事件番号: 昭和25(ク)57 / 裁判年月日: 昭和25年7月21日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所が民事事件の抗告について裁判権を有するのは、原決定に憲法違反の判断が含まれる場合に限られ、通常の再抗告規定は適用されない。 第1 事案の概要:抗告人等が、下級審の決定に対して最高裁判所へ抗告を申し立てた事案。抗告状の記載によれば、その抗告理由は原決定における憲法適合性の判断を不当とするも…
あてはめ
本件において、原審が執行停止の決定をしたのは昭和27年3月15日である。これに対し、内閣総理大臣が異議を述べたのは決定後の同年5月16日であることが記録上明らかである。同条の異議は「決定をなすべきではない」という消極的要件を定めるものであるから、すでに決定がなされた後に事後的に異議を述べることは、法律の予定する手続に反し不適法といわざるを得ない。
結論
内閣総理大臣の異議は執行停止決定前になされることを要するため、本件異議は不適法である。したがって、不適法な異議を前提とする抗告も不適法として棄却すべきである。
実務上の射程
行政事件訴訟法27条の「内閣総理大臣の異議」の時期的限界を画した判例。答案上は、執行停止の要件検討において総理の異議がある場合に引用するが、決定前でなければならない点に注意が必要。なお、本判決の傍論や個別意見では「除名処分」が司法審査の対象になるか(部分社会の法理)が議論されているが、多数意見は手続的側面のみで判断している。
事件番号: 昭和24(ク)91 / 裁判年月日: 昭和25年9月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】内閣総理大臣の異議があった場合でも、裁判所が執行停止を取消すのは異議に拘束されたためではなく、停止を維持することが適当でないと裁判所自身が認めたためであると解すべきであり、その判断において異議申立規定の違憲性を審査する必要はない。 第1 事案の概要:大阪地方裁判所は学校閉鎖命令の執行停止を決定して…
事件番号: 昭和24(ク)21 / 裁判年月日: 昭和24年9月28日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所に対する抗告は、民事訴訟法等の法令において特に最高裁判所への申し立てが許容されている場合に限り認められ、これに該当しない抗告は不適法である。 第1 事案の概要:抗告人らが最高裁判所に対して抗告を申し立てたが、当該抗告が法律の規定により最高裁判所に申し立てることが特に許容された類型に該当す…
事件番号: 昭和25(ク)12 / 裁判年月日: 昭和27年10月15日 / 結論: その他
一 行政事件訴訟特例法第一〇条第二項本文が、行政処分の執行停止について一定の制限を設けているからといつて、同条項は、憲法によつて裁判所に与えられた行政事件審判権を侵犯する違憲の法律とはいえない。 二 民訴第四一九条の二第二項が憲法に違反するとの主張は、適法な同条の抗告理由でない。
事件番号: 昭和24(ク)11 / 裁判年月日: 昭和24年3月24日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】最高裁判所に対する抗告は、訴訟法が特に定めた場合、すなわち原決定における憲法判断の不当を理由とする場合に限り許容される。 第1 事案の概要:抗告人は、最高裁判所に対して本件抗告を申し立てた。しかし、提出された抗告申立書及び抗告理由書の内容を検討したところ、原決定に憲法判断の不当があることを理由とす…