訴願裁決で農地買収計画を取り消した後に、裁決庁が自ら右訴願裁決を取り消すことは原則としてゆるされない。
農地買収計画を取り消した訴願裁決を裁決庁が自ら取り消すことの適否
自作農創設特別措置法7条5項,訴願法16条
判旨
行政不服申立てに対する裁決は、実質的に法律上の争訟を裁判する性質を有するものであるから、特別の規定がない限り、裁決庁自らがこれを取り消すことはできない。
問題の所在(論点)
行政不服申立てに対する裁決について、裁決庁に職権による自己取消権が認められるか。裁決が有する「不可変更力」の有無が問題となる。
規範
行政処分であっても、実質的に法律上の争訟を裁判する性質(準司法的作用)を有する裁決については、その性質に鑑み、特別の規定がない限り、処分庁において自らこれを取り消すことはできない(不可変更力)。
重要事実
農地委員会が作成した農地買収計画に対し、被上告人が異議を申し立て、一旦は被上告人の主張を認める裁決(買収計画の一部を取り消す等の内容)がなされた。しかし、その後裁決庁(上告人)は、現地調査の不足による事実誤認があったとして、自ら当該裁決を取り消したため、その取消処分の効力が争われた。
あてはめ
本件裁決は形式上は行政処分であるが、本質的には法律上の争訟を裁判する前審的裁判(準司法的作用)である。憲法76条2項後段が行政機関による終審裁判を禁止する一方で前審を許容していることから、このような裁決には裁判に準ずる安定性が求められる。本件において裁決を自ら取り消すことを許容する特別の規定はなく、また、理由とされる事実誤認も単なる調査不足に過ぎず、裁決の自己取消を正当化する特段の事情には当たらない。
結論
裁決庁による自己取消は、特別の規定がない限り認められず、本件の取消処分は違法である。
実務上の射程
裁決の不可変更力に関するリーディングケースである。答案上は、不服申立てに対する裁決を後から処分庁が覆すケースにおいて、裁決の準司法的性質を理由に職権取消を制限する文脈で使用する。なお、本法理は「裁決」特有のものであり、通常の行政処分には原則として適用されない点に注意を要する。
事件番号: 昭和27(オ)144 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 棄却
行政処分に対する異議申立が法定期間経過後になされた場合、異議決定庁は諸般の事情を考察し宥恕すべき事由があると認めるときは、その裁量によりこれを受理することができる。