一 校則上扶養家族以外の者の同居を禁止されている校宅に居住している賃貸人が、当時既に同居させている二女の夫が復員して右校宅に同居することは右校則違反として退去を求められる虞れあるにより、二女夫婦等を居住させるため必要だとして賃貸借の解約申入をした場合において、その後二女の夫が帰還して右校宅に同居し、他に借家を求めたが得られなかつたことおよび校宅所有者より右校宅の明渡を求められ、ついで明渡調停の申立を受けたという事実は、右解約申入の正当事由の有無を判断するについての一資料たり得る。 二 貸借人が医業を営むという一事により借家法上当然に他の職業を営む者に優位して保護を受けることはできない。
一 賃貸借解約申入後の事情と借家法第一条ノ二にいわゆる「正当ノ事由」 二 医業を営む者の借家法上の地位
借家法1条ノ2
判旨
賃貸借解約申入れの正当事由(借家法1条の2)の有無を判断する際、申入れ後に生じた事情であっても、申入れ当時の事由を具体化し裏付けるものであれば判断資料として斟酌できる。また、当事者の職業の実状は居住の安全を比較考慮する一資料となるが、職業の性質に基づく独自の価値判断により特定の職業を優遇・冷遇することは許されない。
問題の所在(論点)
1. 解約申入れ後に発生した事実を、申入れの正当事由を判断する際の資料として斟酌できるか。2. 正当事由の判断において、当事者の職業(医業)の性質をどのように考慮すべきか。
規範
借家法1条の2(現行借地借家法28条)にいう「正当の事由」の有無を判断するにあたっては、解約申入れ当時の事由を基礎とすべきであるが、申入れ後に生じた事実であっても、それが当時の事由を具体化し、または事由が虚偽でなかったことを裏付けるものである限り、独立の事由ではないが判断資料として斟酌できる。また、当事者の職業の実状は、双方の居住の安全を比較考慮するための事実上の資料として考慮されるべきであり、職業の性質そのものに基づいて借家法上の保護の優劣を判断してはならない。
重要事実
賃貸人(被上告人)は、自身が居住する学校の校宅が「扶養家族以外の同居禁止」という規則を有しており、復員してくる二女の夫を同居させれば規則違反で退去を求められる恐れがあったため、昭和20年8月に賃借人(上告人)に対し解約を申し入れた。申入れ後の同年10月に二女の夫が実際に帰還し、その後学校から明渡請求や調停申立てを受けた。一方、賃借人は医師であり、その職業の性質上、借家法による特別の保護を受けるべきであると主張して、正当事由を否定しようとした。
あてはめ
1. 被上告人が主張する復員後の同居や学校からの明渡要求等の事実は、解約申入れ当時の「校則違反により退去を求められる恐れ」という事由が具体化したものであり、当時の事由の真実性を裏付けるものである。したがって、これらを正当事由の判断材料とすることは妨げられない。2. 賃借人が医師であるという事実は、その生活実態(医業を営む実状)として居住の安全を比較考慮する際の一資料にはなるが、医師法による規制等があるからといって、借家法上の保護において他の職業より優位に立ったり不利益を受けたりするものではない。
結論
解約申入れ後の事情を斟酌して正当事由を認めた原審の判断は正当であり、本件解約申入れには正当事由が認められる。
実務上の射程
正当事由の判断基準時が「解約申入れ時」であることを前提としつつ、その後の事情を「事後的な裏付け」として取り込む実務上の技法を示している。答案上では、申入れ後の事情(代替家屋の確保状況の変化等)を書く際に、本判例を根拠に「申入れ時の事情を具体化・補強するもの」として構成することが可能である。
事件番号: 昭和25(オ)6 / 裁判年月日: 昭和28年12月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸人が自己の居住用家屋の明渡しを求められている場合であっても、物件取得の経緯や当事者の職業関係等の諸事情を比較考慮し、解約申入れに「正当の事由」が認められない場合がある。 第1 事案の概要:賃貸人(上告人)は、現在居住している家屋の所有者から明渡しを求められていた。そこで上告人は、自ら購入した本…