売買の手附は、反対の証拠がない限り、民法第五五七条所定のいわゆる解約手附と認むべきである。
手附の性質
民法557条1項
判旨
売買の当事者間に手附が授受された場合、特段の意思表示がない限り、民法557条に定める解約手附としての効力を有するものと推定される。これと異なる性質の手附であることを主張する者は、その旨の特別の意思表示が存在することを主張・立証すべき責任を負う。
問題の所在(論点)
売買契約に際して授受された手附の法的性質について、特段の合意がない場合に民法557条の解約手附と解されるか、また、その性質に関する主張・立証責任はどちらの当事者が負うべきか。
規範
売買契約において手附が交付された場合、当事者間に特段の意思表示がない限り、その手附は民法557条1項所定の解約手附としての性質を有する。したがって、証証責任の分配として、当該手附が解約手附以外の性質(違約手附等)を持つことを主張する側が、その旨の合意(特別の意思表示)の存在を主張・立証しなければならない。
重要事実
売買契約の当事者間で手附の授受が行われた。上告人は、当該手附が民法557条に定める解約手附とは異なる効力を有するものであると主張したが、原審はその主張を裏付ける証拠がないとしてこれを認めなかった。このため、上告人は原判決の法令解釈の誤りを主張して上告した。
あてはめ
本件において、手附が授受された事実に争いはない。民法557条は手附の標準的な性質を定めた規定であるため、特段の合意がない限り同条の適用がある。上告人は本件手附が同条とは異なる性質を持つと主張するが、原審の認定によれば、そのような特別の意思表示があったことを認めるに足りる証拠が存在しない。よって、本件手附は解約手附としての性質を失わず、上告人の主張は立証を欠くものといえる。
結論
本件手附は解約手附としての効力を有するものと認められ、これと異なる性質を認める証拠がない以上、上告を棄却すべきである。
実務上の射程
手附の性質に関する原則的な推定規定を示したものとして重要である。答案作成上、手附の性質が問題となる場面(解除の可否等)では、まず民法557条を指摘し、特段の合意の有無を検討する際の枠組みとして活用する。特に、違約手附としての主張がある場合には、本判決を根拠に主張・立証責任が当該主張者側にあることを明示できる。
事件番号: 昭和36(オ)1417 / 裁判年月日: 昭和39年1月24日 / 結論: 棄却
買主の違約があつても、売主が手附没収の意思表示をするまでは、売買契約は終了しないから、その後において売主の債務がその責に帰すべき事由によつて、履行不能となつた場合には、買主は手附倍戻しの請求ができる。
事件番号: 昭和34(オ)393 / 裁判年月日: 昭和35年11月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約等において授受される手附は、必ずしも解除権を留保する趣旨の解約手附(民法557条1項)に限られるものではなく、契約成立の証拠として授受される証約手附と認めることも妨げられない。 第1 事案の概要:上告人は、授受された手附が解除権を留保した内容(解約手附)であると主張したが、原審(控訴審)は…
事件番号: 昭和25(オ)9 / 裁判年月日: 昭和29年1月28日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】当事者が主張していない重畳的債務引受の事実を裁判所が認定して判決の基礎とすることは、弁論主義に違反し許されない。 第1 事案の概要:被上告人(買主)は、売買契約の売主が上告人及び共同被告Dの2名であると主張した。これに対し、上告人は売主は自分単独であり、後に免責的債務引受がなされたと抗弁した。しか…