夫婦の一方が他方の不正行為を摘発してこれを罪におとすことは、その名誉もしくは面目を著しく毀損するものであつて、改正前の民法第八一三条第五号の重大なる侮辱にあたる。
夫婦の一方が他方の不正行為を摘発する行為と旧民法第八一三条第五号
旧民法813条5号
判旨
夫婦の一方が他方の家庭内の秘事を当局に摘発して罪に陥れる行為は、たとえ相手方に罪責がある場合でも、夫婦間の信頼関係を破壊し、名誉・面目を著しく毀損する「重大な侮辱」にあたる。
問題の所在(論点)
夫婦の一方が、他方の犯罪事実を当局に摘発して処罰を受けさせた行為が、離婚原因である「重大なる侮辱」に該当するか。特に、相手方に実際に罪責があり、かつ夫婦関係が既に破綻に近い状態であった場合でも肯定されるか。
規範
夫婦の一方が、他方の名誉もしくは面目を著しく毀損する行為を行い、夫婦道に違反して共同生活の維持を困難にさせるに至った場合には、旧民法813条5号(現行民法770条1項5号の趣旨を包含)の「重大なる侮辱」にあたるものと解する。これは、行為の客観的違法性のみならず、夫婦間の信義誠実義務に照らして判断されるべきである。
重要事実
上告人(妻)は、被上告人(夫)に対し離婚や生活費等を要求したが拒絶されたため、夫が刀剣類を所持していることを占領軍に告発すると脅迫した。上告人は実際に電話で通報し、当局の家宅捜索に際しては自ら案内して家内を物色させた。その結果、長刀の穂先等が発見され、夫は銃砲等所持禁止令違反等により罰金刑に処せられた。当時、夫婦仲は破局の最終段階にあった。
事件番号: 昭和31(オ)524 / 裁判年月日: 昭和35年6月17日 / 結論: 棄却
妻が醜業に従事したことがあつても、原審認定のような事情(原判決理由参照)がある場合は、夫からのこれを理由とする離婚の請求は許されない。
あてはめ
上告人は、夫の家庭内の秘事を摘発して罪に陥れた。たとえ夫に実際の罪責があり、夫婦仲が既に破局の最終段階にあったとしても、いまだ夫婦である限り、配偶者の弱みを握って当局に告発し処罰を求める行為は、夫婦間の信義を著しく裏切るものである。このような行為は、夫の名誉および面目を著しく毀損するものであり、夫婦道に照らして許容されない。したがって、客観的に「重大なる侮辱」の評価を免れない。
結論
本件摘発行為は「重大なる侮辱」にあたるため、離婚原因を認めた原判決は正当である。上告棄却。
実務上の射程
現行法下の「婚姻を継続し難い重大な事由」(770条1項5号)の解釈において、名誉毀損や信義に反する告発行為が破綻原因として評価される際の重要な先例となる。夫婦間の守秘義務や信義誠実義務が、公的な法執行への協力よりも優先され得る場面があることを示唆している。
事件番号: 昭和31(オ)371 / 裁判年月日: 昭和33年1月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】離婚原因となった事実に基づく損害賠償請求は、相手方だけでなく、その共同不法行為者である第三者に対する請求についても離婚の訴えと併合して提起できる。また、自己の父が妻と不倫関係にある場合に、夫がその事実を知りながら看過・加担した場合には、夫自身も共同不法行為責任を負い、かつ夫からの離婚請求は認められ…
事件番号: 昭和63(オ)316 / 裁判年月日: 平成元年9月7日 / 結論: 破棄差戻
有責配偶者である夫(大正一五年四月生)からの離婚請求であつても、夫婦の別居期間が約一五年六か月に及び、その間の子が夫と同棲する女性に四歳時から実子同然に育てられて一九歳に達しており、妻(昭和九年三月生)は別居期間中夫所有名義のマンションに居住し、主に夫から支払われる婚姻費用によつて生活してきたものであり、しかも、妻が離…
事件番号: 平成14(受)505 / 裁判年月日: 平成16年6月3日 / 結論: 破棄差戻
1 離婚の訴えの原因である事実によって生じた損害賠償請求の反訴の提起及び離婚の訴えに附帯してする財産分与の申立てについては,控訴審においても,相手方の同意を要しない。 2 原審の口頭弁論の終結に至るまでに離婚請求に附帯して財産分与の申立てがされた場合において,上訴審が,原審の判断のうち財産分与の申立てに係る部分について…