借家法により第三者に対抗し得る賃借権は、建物の競売公告に記載してなくても、これにより右の対抗力が消滅するものではない。
競売公告に記載しなかつた賃借権の対抗力
借家法1条,民訴法658条3号
判旨
借家法に基づき第三者に対抗し得る賃借権は、不動産競売の公告にその記載がない場合であっても、当然には消滅せず、競落人に対抗することができる。
問題の所在(論点)
競売公告に賃借権の記載がない場合、借家法上の対抗要件を備えた賃借権は消滅するか。また、所有権留保特約の成立に明示の意思表示が必要か。
規範
借家法(現・借地借家法31条)上の対抗要件を具備した賃借権は、民事執行手続における競売公告への記載の有無にかかわらず、その対抗力を維持する。また、所有権留保の特約は明示的になされる必要はなく、黙示の意思表示によっても成立し得る。
重要事実
建物の賃借人である被上告人が、当該建物を競落した上告人に対し、賃借権を主張した事案。上告人は、競売公告に賃借権の記載がなかったこと、および賃料支払の事実のみでは賃貸借の存在を認定できないこと等を理由に、賃借権の対抗力を争った。原審は、黙示の所有権留保特約の存在を認めるとともに、競売公告の記載にかかわらず対抗力が維持されると判断した。
あてはめ
被上告人の賃借権が借家法により第三者に対抗し得るものである以上、手続上の競売公告に記載されなかったという一事をもって、実体法上の対抗力が失われることはない。また、所有権留保についても、証拠関係から黙示の意思表示があったと認められるため、代金全額の支払がない限り所有権は移転せず、賃貸借関係の継続を認めることができる。
結論
被上告人は本件賃貸借をもって上告人に対抗し得る。競売公告に記載がないことは賃借権消滅の理由とはならない。
実務上の射程
不動産競売と賃借権の対抗力に関する基本判例である。執行手続上の瑕疵(公告漏れ)は、実体法上の対抗要件(建物の引渡し等)を具備した賃借人の地位を左右しないことを明示しており、競落人による明渡請求に対する抗弁として、借地借家法31条の対抗要件具備の事実を主張する際の根拠となる。
事件番号: 昭和38(オ)407 / 裁判年月日: 昭和39年7月14日 / 結論: 棄却
国税滞納処分の差押登記後の家屋賃借人が家屋の引渡を受けても、右賃貸借を競落人に対抗できない(昭和二九年(オ)一三号、昭和三〇年一一月二五日二小判決参照)から、賃借人から右家屋の一部を転借して占有するに至った者も占有権をもって競落人に対抗できない。