第二点においては、上告人から被上告人えの所有権移転登記は無効であり、上告人はその登記の抹消をなさしめることができると主張するが、たとえ無効であるとしても、その旧名義人が曾て当該所有権を全く取得したことがなく、右無効の登記を抹消して旧登記名義を回復するにつき実体上何らの利益をも認められないときは右無効登記につき抹消登記を請求する権利を有しないと解するのが相当であり、原審の確定した事実によれば、上告人は未だ曾て本件不動産につき所有権を取得したことがなく、本件係争の所有権移転登記を抹消することによつて、登記簿上本件不動産の所有名義を自己に回復するにつき実体上何らの利益のないことが明かであるから、上告人は本件所有権移転登記の抹消を求める権利を有しないと解すべきであつて、この点についての原審の判断は、結局相当であつて、論旨は理由がない。
所有権移転登記が無効であつてもその旧名義人が右登記抹消請求をする利益のない場合
判旨
不動産登記が実体上無効であっても、旧名義人がかつて当該所有権を一度も取得したことがなく、登記を回復することについて実体法上の利益が認められない場合には、当該無効登記の抹消を請求することはできない。
問題の所在(論点)
不動産登記法上の抹消登記請求において、登記名義人が実体法上の所有権を一度も取得したことがない場合であっても、登記の無効を理由に抹消を請求することができるか。抹消登記請求権の発生要件としての「実体上の利益」の成否が問題となる。
規範
無効な所有権移転登記の抹消を請求するためには、単に現登記が実体関係に符合しないというだけでは足りず、請求者において当該登記を抹消して自己の登記名義を回復することについて、実体法上の利益を有していることを要する。したがって、旧名義人がかつて当該所有権を全く取得したことがない場合には、特段の事情のない限り、抹消登記を請求する権利を有しない。
重要事実
上告人は、被上告人名義の所有権移転登記がなされている本件不動産について、当該登記が無効であると主張して、その抹消登記手続を求めた。しかし、原審の認定によれば、上告人はこれまで一度も本件不動産の所有権を取得したことがなく、単に登記簿上の旧名義人であったに過ぎないという状況であった。上告人は、登記名義の回復が実体上の利益に繋がらない状態で抹消を請求した。
あてはめ
本件において、上告人から被上告人への所有権移転登記が仮に無効であったとしても、上告人は未だかつて本件不動産の所有権を収得したことがない。そうであるならば、上告人が当該無効登記を抹消して登記簿上の所有名義を自己に回復させたとしても、それは実体的な権利関係を反映するものではなく、上告人には実体上の利益が認められない。したがって、上告人は本件登記の抹消を求める権利を行使し得ないというべきである。
結論
上告人は本件所有権移転登記の抹消を求める権利を有しない。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
物権的請求権としての妨害排除請求(抹消登記請求)を認めるには、請求者に正当な権利(所有権等)または回復すべき実体法上の地位があることを要することを示した。無権限者間の登記の移転において、真の所有者でない前名義人からの請求を遮断する論理として機能する。答案上は、物権的請求権の要件論(「自己の所有」の充足性)に関連して、実体関係を伴わない形式的登記名義の回復の可否を論じる際に参照すべきである。
事件番号: 昭和27(オ)995 / 裁判年月日: 昭和29年10月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産につき所有権取得の仮登記がなされても、その後その実質的基礎を失って抹消され、本登記に至らなかった場合には、当該仮登記権利者からの譲受人は、本登記権利者及びその承継人に対して所有権の取得を対抗できない。 第1 事案の概要:上告人は、係争建物の所有権を訴外Dから取得したと主張して本訴を提起した。…