売主が売買契約の合意解除により代金を買主に返還した後、右代金額につき財産税を徴収された場合においても、売主は、民法第六六五条および第六五〇条または第一九六条の規定に基き、買主に対し右税額の償還を請求することはできない。
売主が売買契約の合意解除により買主に代金を返還した後右代金額につき財産税を徴収された場合における買主に対する右税額の償還請求権の有無
財産税法(昭和21年法律52号)1条,財産税法(昭和21年法律52号)22条,民法196条,民法650条,民法665条
判旨
売買契約が合意解除された場合、当事者間の清算関係は原則として合意により規整されるため、特段の定めがない限り、既給付の返還は合意に基づく義務となり、不当利得返還等の問題は生じない。
問題の所在(論点)
売買契約が合意解除された場合、既受領の金員に関する清算関係に不当利得返還(民法703条等)や法定の費用償還請求権(民法650条、196条等)が成立するか、あるいは当事者間の合意による規整が優先されるか。
規範
契約が合意解除された場合、当事者はその間の法律関係を合意により規整するものと解すべきである。したがって、特段の定めがない限り、契約義務の履行として受領済みの給付についても、その合意に基づき返還すべき義務が生じるものであり、不当利得返還義務等の法定債務が発生する余地はない。
重要事実
上告人と被上告人の間で土地建物の売買契約が成立し、被上告人は内金2万円を支払った。上告人は、受領した金員の中から財産税1万5000円を納付した。その後、本件売買契約は合意解除され、上告人は受領済みの2万円を返還することとなった。上告人は、納付した税金は実質的に被上告人のための支出であるとして、委任事務費用の償還請求(民法665条、650条)または占有者の保存費償還請求(民法196条)に基づき、被上告人に対し1万5000円の支払いを求めて提訴した。
あてはめ
本件の内金2万円は、売買契約の履行として支払われた時点で上告人の所有に帰属していた。合意解除の遡及効があったとしても、上告人が受寄者や他人の物の占有者になるわけではないため、民法650条や196条の適用・準用は認められない。また、合意解除に際して特段の定めがなされていない本件においては、既給付の返還義務も当事者の合意に含まれると解すべきであり、これと別に不当利得返還義務等の法定債務が発生することはない。したがって、納税費用の償還を求める上告人の主張は法的根拠を欠く。
結論
上告人の請求は認められない。合意解除に伴う清算は当事者の合意に従うべきであり、特段の合意がない限り、合意内容に含まれない費用の償還を不当利得や事務管理等の法的枠組みで請求することはできない。
実務上の射程
法定解除(民法545条)とは異なり、合意解除(解除契約)においては当事者間の意思表示による解決が優先されることを示す。答案上は、解除に伴う原状回復の法的性質が問題となる場面で、当事者間に「合意」がある場合には、まずその合意の解釈を優先すべきという文脈で使用する。不当利得等の法的構成を安易に用いる前に、合意の内容を確認すべきとする指針となる。
事件番号: 昭和26(オ)581 / 裁判年月日: 昭和28年9月22日 / 結論: 棄却
不法原因給付の返還の特約は有効である。