自作農創設特別措置法第三一条第三項、同法施行令第二五条第一項、昭和二二年四月一七日付開第七五五号農林次官依命通牒「未墾地等の対価算定基準及び損失補償額算定に関する件」による未墾地の買収対価は憲法第二九条第三項にいう「正当な補償」にある。
自作農創設特別措置法による未墾地買収対価と憲法第二九条第三項にいう「正当な補償」
自作農創設特別措置法31条3項,自作農創設特別措置法施行令25条1項,憲法29条3項
判旨
憲法29条3項の「正当な補償」とは、当時の経済状態において成立すると考えられる価格に基づき、合理的に算出された相当の額をいい、常に完全な市場価格と一致することを要しない。未墾地の買収においても、近傍類似農地の時価(統制額)を基礎に自由価格を考量した算出基準によれば、同項に適合する。
問題の所在(論点)
自創法に基づく未墾地(山林)の買収対価の算定基準が、憲法29条3項の要求する「正当な補償」に合致するか。特に、市場価格が成立し得る未墾地に対し、価格統制下にある農地価格を基準に算出することが許容されるか。
規範
憲法29条3項にいう「正当な補償」とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき、合理的に算出された相当の額をいい、必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するものではない。財産権を公共のために用いる場合の補償額が、客観的な諸条件を具備し、その目的達成のために必要かつ合理的な範囲で算出されているのであれば、当該規定の趣旨に適合する。
重要事実
国が自作農創設特別措置法(自創法)に基づき、農地買収のみならず、農地開発の目的で未墾地である山林を買収した事案である。本件山林の買収対価は、同法及び関連通牒に基づき、当該土地の「近傍類似の農地の時価(自創法上の最高限度額)」に、中央農地委員会が定めた「45パーセント」という率を乗じて算出された。上告人(土地所有者)は、この算出額が市場価格を著しく下回り、憲法29条3項の「正当な補償」に反すると主張して争った。
事件番号: 昭和25(オ)35 / 裁判年月日: 昭和29年7月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法29条3項の「正当な補償」とは、必ずしも常にその当時の完全な価格と一致すべきものではなく、合理的算出方法により決定された相当な額であればよい。自作農創設特別措置法による農地買収価格は、農地改革という社会変革の公共の利益に照らし、正当な補償の範囲内に属する。 第1 事案の概要:上告人は、自作農創…
あてはめ
まず、未墾地の買収は自作農創設という自創法の目的達成のために行われるものであり、その対価を同目的の基礎となる農地価格に準拠させることは合理的かつ適切である。次に、基準となる農地の「時価」とは価格統制の最高限度額を指すが、これに乗ずる「45パーセント」の率は、戦前の自由価格比率(19%)と戦後の財産税基準比率(71%)の中間値として算出されており、当時の自由価格が十分に考量されているといえる。したがって、農地価格との均衡を図りつつ自由価格を参酌した本件算出基準は、合理的な算出方法として認められる。
結論
本件山林の買収対価は、憲法29条3項にいう「正当な補償」に当たり、合憲である。
実務上の射程
「正当な補償」の意義について、完全補償説(市場価格による全額補償)ではなく、相当補償説(合理的算出による相当額)を採用したリーディングケースの一つ。公共的目的のための財産制限において、算出過程の合理性や公益性との調和を重視する答案構成で活用する。農地改革という特殊な歴史的背景を考慮しつつも、損失補償の一般的基準を示すものとして位置付けられる。
事件番号: 昭和24(オ)227 / 裁判年月日: 昭和32年12月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法29条3項の「正当な補償」とは、被収用財産の客観的な経済価値の補償を意味する。自作農創設特別措置法に基づく農地買収において、法定の最高価格を基準としつつ、当該物件の特有の事情を考慮して算定された対価は適法である。 第1 事案の概要:上告人は、自作農創設特別措置法に基づき畑を買収されたが、その買…
事件番号: 昭和25(オ)163 / 裁判年月日: 昭和30年1月26日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法29条3項の「正当な補償」とは、必ずしも常に市場価格と合致することを要せず、公共の利益等の諸般の事情を考慮して算定される合理的相当な額をいう。農地改革における買収対価の規定は、当該目的のために合理的な範囲内にある限り、同項に反しない。 第1 事案の概要:自作農創設特別措置法に基づき、上告人が所…
事件番号: 昭和25(オ)98 / 裁判年月日: 昭和28年12月23日 / 結論: 棄却
自作農創設特別措置法第六条第三項本文の農地買収対価は、憲法第二九条第三項にいわゆる「正当な補償」にあたる。
事件番号: 昭和25(オ)42 / 裁判年月日: 昭和29年2月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地改革における買収対価が憲法29条3項の「正当な補償」にあたるか否かが争われ、先行の大法廷判決を維持して合憲と判断された。 第1 事案の概要:戦後の農地改革を推進するために制定された自作農創設特別措置法に基づき、政府が地主の所有する農地を強制的に買収した。上告人(地主側)は、同法6条3項に定める…