一 不法原因給付の返還の特約は、有効である 二 不法原因給付の返還の特約に基く返還義務の履行のため振り出された手形の請求には、民法七〇八条は適用がない。
一 不法原因給付の返還の特約の効力 二 不法原因給付の返還の特約に基く返還義務の履行のため振り出された手形の請求と民法第七〇八条
民法90条,民法708条
判旨
不法原因給付の受領者が給付者に対し、給付の原因となった契約を合意解除してその給付物を返還する旨の特約をすることは、民法708条の禁ずるところではなく、公序良俗にも反しない。
問題の所在(論点)
不法原因給付(民法708条)に該当する給付がなされた後、当事者間でなされた当該給付の返還特約は、同条の趣旨や公序良俗(民法90条)に反して無効となるか。
規範
民法708条が不法原因給付の返還請求を認めないのは、給付者の返還請求に法律上の保護を与えないという趣旨であり、受領者に給付を保持し続ける正当な原因を付与するものではない。したがって、受領者が任意に返還することや、当初の不法原因契約を合意解除して返還する旨の特約を締結することは同条により禁止されず、当該特約が直ちに民法90条により無効となることもない。
重要事実
被上告人(原告)は、上告人(被告)に対し、食糧管理法に違反する可能性のある物資買入のために8万4000円を交付した。その後、両者はこの不法な原因に基づく契約を合意解除し、受領していた金員を返還する旨の特約を締結した。この返還特約に基づき、上告人は手形を振り出したが、その支払を拒絶したため、被上告人が手形金の支払を求めて提訴した。
あてはめ
本件における8万4000円の交付が不法原因給付に該当するとしても、民法708条は給付者側からの返還請求権を否定するにすぎない。本件では、受領者である上告人が自ら合意解除に応じ、返還の特約を締結している。このような返還特約は、不法な状態を解消しようとする当事者の自由な意思に基づくものであり、給付者に返還請求権を認めることとは異なる。したがって、当該特約に基づく手形金の支払請求は、民法708条の適用によって妨げられるものではなく、公序良俗違反として無効ともいえない。
結論
不法原因給付の返還特約は有効であり、当該特約に基づく返還請求(本件では手形金の支払請求)は認められる。
実務上の射程
一度不法原因給付がなされた場合でも、当事者が任意に「返し受ける」合意をしたのであれば、その合意(新たな契約)を根拠とする請求は可能である。答案では、708条の趣旨を「クリーンハンズの原則」と解釈した上で、本件は「法による強制的な返還」ではなく「合意に基づく履行」である点に注目して、射程外であることを論じる際に用いる。
事件番号: 昭和29(オ)114 / 裁判年月日: 昭和33年2月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】政府の許可を得て統制価格の範囲内で売買する契約に基づき交付された代金は、法律上許可を得る途があり得る以上、当然には不法といえず、民法708条の不法原因給付には当たらない。 第1 事案の概要:上告人A(売主)と被上告人等(買主)との間で行われた落花生の取引において、被上告人等は前渡代金を交付した。本…