仮処分決定があつた後に仮処分申請者がその本案訴訟で敗訴の判決を受けた場合においては、その確定前であつても、裁判所は自由裁量によつて本案判決が上級審において取り消されるおそれがないと判断するときには、事情の変更があつたものとして仮処分決定を取り消すことができる。
仮処分債権者が本訴において敗訴した場合と事情変更による仮処分の取消
民訴法747条(756条)
判旨
仮処分決定後に申請者が本案訴訟で敗訴した場合、裁判所はその自由裁量により、上級審で本案判決が取り消されるおそれがないと判断するときは、事情変更による仮処分の取消しを認めることができる。
問題の所在(論点)
仮処分申請者が本案訴訟において敗訴判決を受けたことが、民事保全法上の「事情の変更」による仮処分決定の取消事由に該当するか。特に、本案判決が確定していない段階での取消しの可否が問題となる。
規範
仮処分決定後の事情変更による取消し(民事保全法37条1項・38条1項参照)において、本案訴訟での敗訴判決は直ちに取消事由となるものではない。しかし、裁判所の自由裁量によって、当該本案判決が上級審において取り消されるおそれが乏しいと判断される場合には、これをもって「事情の変更」があったものとして仮処分決定を取り消すことができる。
重要事実
上告人は、被上告人に対し建物の所有権移転登記手続請求の訴えを提起し、あわせて当該建物の処分禁止の仮処分を得た。しかし、上告人は本案の第一審で敗訴(控訴は継続中)した。これを受けて被上告人が「事情変更」を理由に仮処分取消しの申立てを行ったところ、第一審および第二審ともに、本案判決の結果を重視して仮処分の取消しを容認したため、上告人がこれを不服として上告した。
あてはめ
本件において、上告人は本案訴訟の第一審で敗訴しており、請求権の存在(被保全権利)に疑義が生じている。裁判所は、上告人が控訴している事実を踏まえてもなお、自由裁量の範囲内において、当該敗訴判決が上級審で覆る可能性が低いと判断した。このような判断がなされる場合には、保全の必要性または被保全権利の蓋然性が失われたものと評価でき、事情変更による取消しを認めることが相当といえる。
結論
仮処分申請者の本案敗訴は、裁判所が上級審で判決が取り消されるおそれがないと判断する限りにおいて「事情の変更」に該当し、仮処分を取り消すことができる。
実務上の射程
本案敗訴が直ちに保全命令の取消事由になるわけではないが、実務上、一審敗訴は「事情の変更」を基礎付ける極めて強力な事実となる。答案上は、本案の進捗状況(一審敗訴等)を指摘した上で、裁判所の合理的な裁量として保全の必要性の消滅を論じる際に本判例を引用すべきである。
事件番号: 昭和40(テ)51 / 裁判年月日: 昭和41年2月25日 / 結論: 棄却
仮処分債権者が第一、二審ともに本案敗訴の判決を言い渡され、その判決理由の説示から推して上告審で破棄されるおそれがないと認められる場合には、右判決のあつたことをもつて、その確定を待つことなく、仮処分取消の事由たる事情の変更が生じたということができる。