一 戸籍簿に戦死した旨記載されている者は、右記載が戸籍法第八九条の報告に基いて登載されたものと認められるときは、反証がない限り、戸籍簿に記載されている日に死亡したものと認むべきである。 二 本人の死亡を代理権消滅の原因とする民法第一一一条の規定は、これと異なる合意の効力を否定する趣旨ではない。 三 民訴第五七条および同第八五条は、法定代理人又は訴訟代理人の訴訟行為の効果が実質上死亡者の相続人に帰属することを容認するものと解すべきである。
一 戸籍法第八九条による戦死報告に基く戸籍簿の記載の証拠力 二 民法第一一一条第一項第一号の趣旨 三 民訴第五七条および同第八五条の趣旨
戸籍法89条,民法111条1項1号,民訴法57条1項,民訴法85条
判旨
民法111条1項1号が定める本人の死亡による代理権消滅の規定は、これと異なる特約を否定する趣旨ではない。応召出征時の父子間における包括的授権等の特別の事情がある場合、本人の死亡後も代理権が消滅しない旨の合意があったと解する余地がある。
問題の所在(論点)
本人の死亡によって代理権が消滅すると定める民法111条1項1号は強行規定か。また、本人の死亡後も代理権を存続させる合意の有効性、およびその合意の有無を判断する際の考慮要素は何か。
規範
民法111条1項1号が本人の死亡を代理権の消滅原因としているのは任意規定であり、当事者間でこれと異なる内容を合意することは可能である。したがって、本人の死亡によっても代理権を消滅させない旨の合意(特約)があれば、本人の死亡後も代理権は存続する。
重要事実
本人の子であるDは、本人が戦地へ応召出征する際、後事一切についての包括的代理権の授権を受けた。本人は昭和20年に戦死したと認定されたが、Dは昭和21年に本人を代理して本件売買契約を締結した。その後、Dは裁判所から本人の不在者財産管理人に選任され、本人を原告として本件訴訟を提起した。相手方は、売買契約時に既に本人が死亡していたためDの代理権は消滅しており、契約は無効であると主張した。
事件番号: 昭和33(オ)1044 / 裁判年月日: 昭和35年7月12日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産売買の売主が所有権移転登記手続の代理権を授与した後、受任者が売主の死亡後に代理人として登記を申請した場合、その登記手続は有効である。 第1 事案の概要:上告人の被相続人Dは、本件不動産を被上告人に売却し、その所有権移転登記手続の代理権を姉であるEに授与した。その後、Dが死亡したが、受任者Eは…
あてはめ
民法111条は異なる合意の効力を否定するものではない。本件では、授権が「父子関係」という親密な関係にあり、かつ「応召出征」という本人の安否が長期にわたり不明となることが予見される状況下で行われた。このような「特別の事情」に照らせば、本人の生存中のみならず、仮に本人が死亡した場合であっても、不在者の財産管理として代理権を存続させる趣旨の合意があったと解する余地がある。この場合、代理権は消滅せず、行為の効果は実質的に本人の相続人に帰属することになる。
結論
民法111条1項1号と異なる特約は有効である。原審は死亡の事実のみをもって直ちに代理権消滅と断じたが、上記特約の成否について審理を尽くさせるため、原判決を破棄し差し戻すべきである。
実務上の射程
任意代理における代理権消滅原因の特約の有効性を認めた重要判例である。司法試験においては、本人の死亡後の代理行為が問題となる事案で、授権時の具体的状況(親族関係、長期不在の予定等)から消滅させない合意を推認する論法として活用できる。なお、商法506条(商行為の委任)等の明文の例外規定との対比でも意識すべきである。
事件番号: 昭和32(オ)563 / 裁判年月日: 昭和33年9月19日 / 結論: 棄却
被相続人の訴訟代理人であつた者は、被相続人の死亡による訴訟承継の結果、新たに当事者となつた相続人の訴訟代理人として訴訟行為をなすことができるものと解すべきである。
事件番号: 昭和31(オ)614 / 裁判年月日: 昭和33年4月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不在者が行方不明になる際、特定の者に自己の財産管理や子女の養育等、留守中の管理一切を委託し実印を預けた場合、受託者は不在者の氏名・押印をもって訴訟代理人を選任する等の特別の権限を授与されたものと解される。 第1 事案の概要:再審被告(被上告人)は、昭和25年7月頃に行方不明となった。その際、養母D…
事件番号: 昭和22(オ)11 / 裁判年月日: 昭和23年9月18日 / 結論: 棄却
土地家屋の譲受人が、現住所を引き揚げて帰郷し、右家屋に居住し、相続人として病臥中の実父を扶養し、且祖先の祭祝を行うという、右譲渡契約に附された停止条件は、譲受人の個人的自由を拘束するものではないから、不法ではない。
事件番号: 昭和35(オ)1321 / 裁判年月日: 昭和36年10月31日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続財産の特別代理人によって選任された訴訟代理人は、当該相続財産の訴訟代理人であり復代理人ではない。また、特別代理人の代理権は、相続財産管理人の選任等により当然に消滅するのではなく、裁判所の解任によって消滅する。 第1 事案の概要:上告人は亡Dの相続財産に対して本訴を提起した。一審判決では当事者表…