仮処分を命じた判決に対し上訴の提起せられた場合、その判決の内容が、権利保全のためにする緊急処置たる範囲を逸脱して権利の終局的実現を命じているときの外、仮処分判決の執行停止決定をすることはできない。
仮処分判決に対する上訴の提起とその判決の執行停止決定
民訴法756条,民訴法748条,民訴法512条,民訴法500条
判旨
仮処分に対する不服申立てに伴う執行停止は、原則として許されないが、仮処分の内容が権利の終局的実現を招来するものであり、執行により回復困難な損害が生じる場合に限り、例外的に類推適用による執行停止が認められる。
問題の所在(論点)
仮処分決定に対する異議申立て、または仮処分判決に対する上訴の提起があった場合に、旧民事訴訟法500条または512条(現行民事保全法27条・47条等に相当)を準用・類推適用して、その執行を一時阻止する停止決定を求めることができるか。
規範
仮処分判決に対する上訴や決定に対する異議申立てに伴う執行停止は、原則として否定される。仮処分は本来、権利保全のための「仮の緊急処置」であり、終局的実現を目的とするものではないからである。ただし、例外として、仮処分裁判の内容が「権利の終局的実現を招来するごときもの」であって、その執行が債務者に対し「回復することのできない損害を生ずる虞のある場合」には、民事訴訟法(当時)500条・512条を類推適用し、執行を停止することができる。
重要事実
本件は、建物の占有解脱および執行吏による保管を命じる仮処分判決がなされた事案である。判決内容は、特定の居室(階下の物置、台所、住居用便所、階上の各室等)を除いた残余の部分について債務者の占有を解くことを命じつつ、現状を変更しない条件で債務者にその使用を許すことができるとするものであった。これに対し債務者は、上告提起を理由に当該仮処分判決の執行停止を申請した。
事件番号: 昭和23(マ)6 / 裁判年月日: 昭和23年6月26日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】上告に伴う強制執行の停止または執行処分の取消しを命ずるためには、上告理由として主張する事情が法律上理由があると一応認められることが必要である。 第1 事案の概要:申請人は、仙台高裁の仮処分取消事件の判決に対し適法に上告を申し立てた。被申請人が当該判決の仮執行宣言に基づき、申請人が診療に使用中の診療…
あてはめ
本件仮処分の内容は、建物の一部の占有を解くことを命じるものであるが、主要な居住空間の使用は除外されており、かつ執行吏の判断で現状のまま債務者の使用を許容し得る内容となっている。これは権利保全のための「仮の緊急処置」の範囲内にとどまり、権利の終局的実現を招来するものとはいえない。したがって、債務者に回復困難な損害が生じる虞があるという例外的な事情は認められない。
結論
本件仮処分判決に対する執行停止の申請は、例外的に類推適用を認めるべき場合に該当しないため、却下すべきである。
実務上の射程
民事保全法制定前の判例であるが、現行法下でも保全執行の停止(民保法27条、47条)の要件である「償うことができない損害を生ずるおそれがあることの疎明」の解釈指針として機能する。特に断行仮処分のような実質的に満足を得る内容の仮処分において、本判決が示した「終局的実現の招来」という視点は、執行停止の必要性を論じる際の重要なメルクマールとなる。
事件番号: 昭和24(オ)273 / 裁判年月日: 昭和26年4月3日 / 結論: 破棄自判
一 仮処分の方法により強制執行を停止することは許されない。 二 請求異議の訴は、強制執行の着手前であつても提起することができる。
事件番号: 昭和43(ク)145 / 裁判年月日: 昭和43年9月3日 / 結論: 却下
仮処分決定に対する異議申立または仮処分判決に対する上訴に伴う執行停止の許否については、原則として、これを消極に解すべく、その停止が許されるのは、きわめて例外的な場合に限られるものと解すべきであるが、例外的な場合に停止を許すことがそれ自体として憲法に反するものではない。
事件番号: 昭和44(ク)240 / 裁判年月日: 昭和44年9月20日 / 結論: 却下
仮処分決定に対する異議申立に伴う執行停止の申立に対し、裁判所が実質的審査をしてその許否を決したときは、その裁判に対して不服申立をすることは許されない。
事件番号: 昭和27(マ)119 / 裁判年月日: 昭和27年10月8日 / 結論: 却下
【結論(判旨の要点)】仮の地位を定める仮処分決定に対する不服申立てを理由として、当該決定の執行停止を求めることは、法律上許されない。 第1 事案の概要:東京地方裁判所がなした地位保全・賃金支払等仮処分決定に対し、相手方(申請人)が当裁判所に不服を申し立て、それを理由として当該仮処分決定の執行停止を求めた事案である。 第…