民法第九六六条(旧法)の家督相続回復請求権の二〇年の時効は、相続権侵害の事実の有無にかゝわらず、相続開始の時から進行する。
家督相続回復請求権の消滅事項の起算点。
旧民法966条,民法166条1項
判旨
旧民法における家督相続回復請求権の20年の消滅時効は、相続開始の時から進行し、相続権の侵害が相続開始から20年を経過した後に行われた場合であっても、同請求権は時効により消滅する。
問題の所在(論点)
相続権の侵害(表見相続人の出現等)が相続開始から20年を経過した後に生じた場合であっても、旧民法966条後段の20年の消滅時効により、家督相続回復請求権は消滅するか。
規範
家督相続回復請求権の長期消滅時効(旧民法966条後段)は、相続開始の時を起算点とする。これは、家督相続に関する紛争を相続開始から一定期間の経過をもって画一的に打ち切ることが、家督相続の性質上および公益上の要請に合致するという趣旨に基づく。したがって、相続権の侵害が相続開始から20年以内に行われたか否かを問わず、相続開始時から20年を経過すれば時効は完成する。
重要事実
Dが明治36年5月20日に死亡し、家督相続が開始した。昭和11年、親族会決議によりE(被上告人の先代)が家督相続人に選定されたが、昭和21年に当該決議を無効とする判決が確定した。その後、昭和22年の親族会決議によって上告人がDの家督相続人に選定された。上告人は家督相続人としての権利を主張したが、被上告人(Eの相続人)は、相続開始時から20年以上が経過しているとして、家督相続回復請求権の消滅時効を援用した。
あてはめ
本件において、家督相続の開始日は明治36年5月20日である。旧民法966条後段によれば、消滅時効は相続権侵害の有無にかかわらず「相続開始の時」から進行する。本件では相続開始の翌日である明治36年5月21日から時効が進行し、特段の中断事由がない限り、大正12年5月20日の経過をもって20年の時効期間が満了する。上告人が相続人として選定され、相続権の侵害が問題となったのは昭和20年代であり、相続開始から既に20年以上が経過している。公益的見地から早期の紛争解決を図るべき同条の趣旨に照らせば、侵害が20年経過後であったとしても時効完成を妨げない。
結論
相続開始から20年が経過した時点で家督相続回復請求権は消滅しているため、時効の抗弁を認めた原判決は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
現行民法884条(相続回復請求権)の解釈においても、相続開始時からの20年という期間の性質(消滅時効か除斥期間か)を論ずる際の有力な判断材料となる。本判決は「時効」としつつも、権利行使が不可能な時点(侵害前)からの進行を認めており、法的安定性を重視する立場を示すものである。答案上は、相続回復請求権の長期的制限の趣旨を説明する際の根拠として活用できる。
事件番号: 昭和30(オ)952 / 裁判年月日: 昭和32年7月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】相続回復請求権は、相続権侵害の事実の有無にかかわらず、相続開始の時から20年の経過により消滅する。 第1 事案の概要:上告人は、その曾祖父Dの相続関係及びそれを前提とするその後の相続関係を争い、本訴を提起した。これに対し、被告側は相続回復請求権の消滅時効(除斥期間)を主張した。なお、相続開始から2…
事件番号: 昭和37(オ)1258 / 裁判年月日: 昭和39年2月27日 / 結論: 棄却
甲の相続権を乙が侵害している場合、甲の相続人丙の乙に対する相続回復請求権の消滅時効の期間二〇年の起算点は、丙の相続開始の時ではなく、甲の相続開始の時と解すべきである。