甲の相続権を乙が侵害している場合、甲の相続人丙の乙に対する相続回復請求権の消滅時効の期間二〇年の起算点は、丙の相続開始の時ではなく、甲の相続開始の時と解すべきである。
相続権を侵害された者の相続人が右侵害者に対して有する相続回復請求権の消滅時効の起算点。
民法884条,旧民法966条,旧民法993条
判旨
相続回復請求権の行使において表見相続人に相続権侵害の意思や所有の意思は不要であり、客観的な侵害の事実状態があれば足りる。また、同請求権の20年の消滅時効は、侵害の有無にかかわらず相続開始の時から進行する。
問題の所在(論点)
相続回復請求権の成立要件として、表見相続人側に「相続権を侵害する意思」や「所有の意思による占有」が必要か。また、同請求権の20年の消滅時効(民法884条後段)の起算点はいつか。
規範
相続回復請求権(民法884条)を行使するには、表見相続人に相続権を侵害する意思(内心の意思)があることや、所有の意思をもって相続財産を占有することを要しない。現に相続財産を占有し、客観的に相続権侵害の事実状態が存在すれば足りる。また、同条後段の20年の消滅時効は、相続権侵害の事実の有無にかかわらず、相続開始の時から進行する。
重要事実
亡Eの死亡により相続が開始したが、共同相続人の一人である亡Dは、自身が家督相続により全遺産を取得したものと誤解した。Dは、他の共同相続人Gの相続権を考慮することなく、本件土地を含む全遺産を管理・使用し続けた。その後、Gの相続人らがDの承継人らに対し相続回復を求めたが、相続開始から20年以上が経過していた。
事件番号: 昭和39(オ)270 / 裁判年月日: 昭和41年4月26日 / 結論: 棄却
甲の相続権を乙が侵害している場合、甲の相続人丙の乙に対する相続回復請求権の消滅時効の期間二〇年の起算点は、丙の相続開始の時ではなく、甲の相続開始の時と解すべきである。
あてはめ
Dは相続開始当初から、全遺産を自己が承継したと誤解して管理使用しており、客観的にGの相続権を侵害する事実状態が存在していたといえる。この場合、Dに侵害の意図がなくても相続回復請求の対象となる。消滅時効については、Gの相続権は相続開始当初からDに侵害されており、その状態が後の相続人に承継されたに過ぎない。したがって、新たな侵害が発生したとはいえず、起算点はEの死亡による相続開始時となる。
結論
相続回復請求権は客観的な侵害状態があれば成立する。本件請求権は相続開始時から20年を経過しており、時効により消滅しているため、上告を棄却する。
実務上の射程
相続回復請求権の消滅時効(20年)が、侵害を知った時ではなく「相続開始時」という客観的時点から画一的に進行することを明示した判例である。答案上では、共同相続人間でも一方が他方の相続権を否定して占有している場合には、本条の適用(または類推適用)を検討する際の解釈指針となる。
事件番号: 昭和38(オ)625 / 裁判年月日: 昭和40年5月28日 / 結論: 棄却
相続回復請求権の二〇年の時効は、数次の相続が行なわれた場合でも、当初の被相続人死亡の時より起算して二〇年を経過したときに完成する。
事件番号: 昭和41(オ)629 / 裁判年月日: 昭和42年7月21日 / 結論: 棄却
不動産の取得時効完成前に原所有者から所有権を取得し時効完成後に移転登記を経由した者に対し、時効取得者は、登記なくして所有権を対抗することができる。
事件番号: 昭和40(オ)246 / 裁判年月日: 昭和41年12月20日 / 結論: 棄却
取得時効の成否の判断にあたり、占有開始の起算日についてその弁論が、判示のように口頭弁論調書に記載されている以上、右日時をもつて占有を開始した事は当事者間に争いがない旨判示しても、原判決には違法があるとはいえない。
事件番号: 昭和49(オ)527 / 裁判年月日: 昭和50年10月24日 / 結論: 破棄差戻
相続人不存在の場合において、特別縁故者に分与されなかつた相続財産は、相続財産管理人がこれを国庫に引き継いだ時に国庫に帰属し、相続財産全部の引継が完了するまでは、相続財産法人は消滅せず、相続財産管理人の代理権も引継未了の相続財産につき存続する。