不動産の取得時効完成前に原所有者から所有権を取得し時効完成後に移転登記を経由した者に対し、時効取得者は、登記なくして所有権を対抗することができる。
不動産の取得時効完成前に原所有者から所有権を取得した者が時効完成後に移転登記を経由した場合と民法第一七七条
民法162条,民法177条
判旨
不動産の取得時効完成時において、当該不動産の譲受人が所有権取得登記を未了であれば、時効取得者は登記なくしてその譲受人に対して時効取得を対抗できる。
問題の所在(論点)
時効完成前に不動産を買い受けた者が、時効完成後に登記を経由した場合、時効取得者は登記なくしてその者に対して時効取得を対抗できるか。民法177条の「第三者」の範囲が問題となる。
規範
不動産の取得時効の完成時において、当該不動産の所有権者である者は、時効による権利取得者に対して直接の義務を負うべき「当事者」の立場にある。したがって、時効完成前に不動産を買い受けていた者は、時効完成時までに登記を経由したか否かにかかわらず、民法177条の「第三者」には該当せず、時効取得者は登記なくして時効取得を対抗できる。
重要事実
被上告人の前主Dは、昭和13年3月以来本件土地を占有し、昭和33年3月21日に20年の取得時効が完成した。一方、上告人は時効完成前の昭和33年2月に本件土地を買い受けて所有権を取得していたが、その登記を経由したのは時効完成後の同年12月8日であった。被上告人が登記なくして上告人に対し時効取得を対抗できるかが争点となった。
事件番号: 昭和43(オ)921 / 裁判年月日: 昭和44年3月6日 / 結論: 棄却
(省略)
あてはめ
本件において、上告人が土地を買い受けたのは昭和33年2月であり、被上告人の時効が完成した同年3月21日の時点では、上告人が本件土地の所有者であった。この場合、上告人は時効による所有権得喪の直接の当事者というべき関係に立つ。上告人が時効完成後に所有権取得登記を経由したとしても、時効完成時点での当事者であるという地位に消長を来すものではない。
結論
被上告人は、本件土地の時効取得を登記なくして上告人に対抗することができる。
実務上の射程
時効完成「前」の第三者との関係に関するリーディングケースである。答案上は、時効完成前の譲受人を「当事者」と構成し、民法177条の適用を否定する論理として用いる。対照的に、時効完成「後」の第三者については二重譲渡類似の関係として177条の適用を認める判例(最判昭33.8.28等)との書き分けが必須である。
事件番号: 昭和32(オ)879 / 裁判年月日: 昭和34年12月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】不動産を占有するにつき何ら正当な権原を有しない者は、不動産登記法上の登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有する「第三者」(民法177条)に当たらない。したがって、正当な権原のない占有者に対しては、登記がなくとも所有権の譲受を対抗できる。 第1 事案の概要:被上告人は、前所有者(前主)から本件土…
事件番号: 昭和41(オ)429 / 裁判年月日: 昭和44年2月18日 / 結論: 棄却
賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡または転貸が行なわれた場合であつても、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、譲受人または転借人は、譲受または転借をもつて、賃貸人に対抗することができ、右の特段の事情については、譲受人または転借人において主張・立証責任を負う。
事件番号: 昭和42(オ)268 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
甲から不動産所有権の譲渡を受けた乙が、所有権取得登記未経由のまま、右不動産を丙に譲渡したのち、かさねてこれを丁に譲渡した場合において、丙は、自己の所有権取得登記を経由しないかぎり、その所有権取得を丁に対抗することができない。
事件番号: 昭和42(オ)491 / 裁判年月日: 昭和43年11月19日 / 結論: 破棄自判
不動産を譲り受けた者がその旨の登記を経由しないうちに、右不動産について、第三者から、譲渡人を仮処分債務者とする処分禁止の仮処分が執行された場合においても、譲受人が登記なくして仮処分債権者にその権利取得を対抗しうる地位にあつたときは、右譲受人は、右仮処分の執行後も、仮処分債権者に対してその所有権の取得を対抗することができ…