不動産を譲り受けた者がその旨の登記を経由しないうちに、右不動産について、第三者から、譲渡人を仮処分債務者とする処分禁止の仮処分が執行された場合においても、譲受人が登記なくして仮処分債権者にその権利取得を対抗しうる地位にあつたときは、右譲受人は、右仮処分の執行後も、仮処分債権者に対してその所有権の取得を対抗することができる。
処分禁止の仮処分の執行前に目的不動産を譲り受けた者が仮処分債権者に対し登記なくして右不動産の権利取得を対抗しうる地位にあつた場合と右仮処分執行後における仮処分債権者に対する所有権取得の主張の許否
民訴法755条,民訴法758条,民法177条
判旨
不動産の譲渡人が、譲受人からさらに買い受けた転得者に対し、自己を仮処分債権者とし第一譲受人を仮処分債務者とする処分禁止の仮処分を執行しても、譲渡人は民法177条の「第三者」に該当しないため、転得者は登記なくして所有権を対抗できる。
問題の所在(論点)
不動産の譲渡人が、その後に当該不動産を譲り受けた転得者に対し、第一譲受人を債務者とする処分禁止の仮処分を執行した場合において、譲渡人は民法177条の「第三者」に該当するか。また、転得者は登記なくして譲渡人に所有権を対抗できるか。
規範
1. 民法177条の「第三者」とは、不動産に関する権利の得喪変更の登記の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する者をいう。2. 不動産を有効に譲渡した前所有者は、当該不動産につき何ら正当な権利を有しないため、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」には該当しない。3. 処分禁止の仮処分が執行されても、譲受人が仮処分債権者に対し登記なくして所有権を対抗しうる地位にあった場合には、その地位は仮処分の執行により影響を受けない。
重要事実
1. 被上告人(元所有者)は、昭和34年5月に本件土地を訴外D社へ有効に譲渡した。2. 上告人は、昭和36年3月にD社から本件土地を買い受けたが、所有権移転登記は未了であった。3. その後、被上告人はD社を債務者として処分禁止の仮処分を執行し、登記がなされた。4. 上告人は仮処分執行後に登記を経由し、被上告人に対し所有権の確認および土地明渡しを求めた。
事件番号: 昭和42(オ)268 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
甲から不動産所有権の譲渡を受けた乙が、所有権取得登記未経由のまま、右不動産を丙に譲渡したのち、かさねてこれを丁に譲渡した場合において、丙は、自己の所有権取得登記を経由しないかぎり、その所有権取得を丁に対抗することができない。
あてはめ
1. 本件土地は、被上告人からD社へ、さらにD社から上告人へと有効に譲渡されている。2. 被上告人は、上告人との関係においては、本件土地を既に売却した「前所有者」にすぎない。3. 前所有者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する「第三者」に当たらない。4. したがって、上告人は登記なくして被上告人に対し所有権を対抗できる地位にあり、その後の仮処分執行によってもこの地位は左右されない。上告人が登記未了のまま仮処分を受けたとしても、被上告人に対しては所有権を主張できる。
結論
被上告人は民法177条の「第三者」に該当しない。したがって、上告人は登記の有無にかかわらず、被上告人に対して本件土地の所有権を対抗でき、所有権確認および土地明渡しの請求は認められる。
実務上の射程
対抗問題における「第三者」の範囲を限定した重要判例である。売主(譲渡人)は二重譲渡の第2譲受人とは異なり、無権利者と同様の立場になるため177条の保護を受けないという理屈を、処分禁止の仮処分が介在する事案にも適用した点に特徴がある。答案では、177条の「第三者」の定義(背信的悪意者排除の文脈等)を論じる際の前提として活用できる。
事件番号: 昭和31(オ)1023 / 裁判年月日: 昭和33年10月14日 / 結論: 棄却
被相続人が不動産の譲渡をなした場合、その相続人から同一不動産の譲渡を受けた者は、民法第一七七条にいう第三者に該当するものと解すべきである。
事件番号: 昭和35(オ)405 / 裁判年月日: 昭和37年3月23日 / 結論: 棄却
不動産の不法占有者は民法第一七七条にいう第三者には当らない。
事件番号: 昭和47(オ)845 / 裁判年月日: 昭和48年4月12日 / 結論: 棄却
甲が乙所有の土地を買い受けて占有している事実を知つている乙の親族丙が、甲の所有権取得登記がされていないのに乗じ、甲の所有権取得の効果を対抗要件の欠缺により失わしめる目的で、乙との間の土地交換契約により右土地の所有権を取得しその旨の登記を経た等判示の事情がある場合には、丙はいわゆる背信的悪意者として、甲の土地所有権取得に…
事件番号: 昭和43(オ)921 / 裁判年月日: 昭和44年3月6日 / 結論: 棄却
(省略)