一 手形が既存債務の支払確保のため振り出された場合、当事者間に別段の意思表示がなく、且つ、債務者自身が手形上の唯一の義務者であるときは、右手形の授受は、既存債務の担保のためになされたものと推定するのが相当である。 二 手形が既存債務の担保のため授受せられた場合には、債権者は、既存の債権と手形上の権利とのいずれをも任意に選択して行使することができる。 三 手形が既存の貸金債務の担保のため授受せられた場合、その手形につき臨時財産調査令による財産申告を怠つたため、手形上の権利の行使ができなくなつても、既存の貸金債権を行使することは妨げない。
一 手形の授受と既存債務の担保の推定。 二 既存債務の担保の手形と請求順序。 三 既存債務の担保の手形につき臨時財産調査令による財産申告を怠つた場合と既存債務の行使。
民法482条,手形法9条,臨時財産調査令(昭和21年勅令85号)2条1項3号,臨時財産調査令(昭和21年勅令85号)9条1項
判旨
既存債務の支払確保のために手形が振出され、かつ債務者以外に手形義務者が存在しない場合、債権者は原因債権と手形債権のいずれを先に選択行使しても差し支えない。
問題の所在(論点)
既存債務の支払確保のために手形が振出された場合において、債権者は手形債権を先行使しなければならないか。また、手形上の義務者が債務者のみである場合に、債権者は原因債権を自由に選択行使できるか。
規範
既存債務の支払確保のために手形が授受された場合、特約等の別段の意思表示がなく、かつ債務者自身が手形上の唯一の義務者であるときは、当該手形は担保を供与する趣旨で授受されたものと推定される。この場合、債権者は手形債権を先行使する義務を負わず、原因債権と手形債権のいずれを任意に選択して行使することも可能である。また、手形債権の行使に法令上の障害がある場合でも、それが当然に原因債権の行使を妨げるものではない。
重要事実
債権者(被上告人)は債務者(上告人)に対し、合計3万5000円を貸し付けた。債務者はこの貸金債務の支払確保のため、支払期日・金額を同一とし、自らを振出人、支払場所を債権者宅とする約束手形を振出して交付した。その後、債権者は手形債権ではなく原因債権である貸金債権に基づき支払を求めたが、債務者は、手形につき法令(臨時財産調査令施行規則)上の行使制限があること等を理由に、原因債権の行使は認められないと争った。
あてはめ
本件手形は、代物弁済ではなく貸金債務の支払確保のために授受されたものである。本件では、既存の貸金債務者と手形上の義務者がいずれも上告人(債務者)のみであり、他に手形義務者は存在しない。また、授受に際して手形の先行使を要する等の特約も認められない。したがって、本件手形は純然たる担保の趣旨で授受されたものと解される。この場合、債権者がいずれの権利を行使するかは自由であり、手形債権に行使上の障害があったとしても、指名債権である貸金債権の行使が当然に制限される理由はない。
結論
債権者は、手形債権を先行使することなく、直接原因債権(貸金債権)を行使することができる。
実務上の射程
原因債権と手形債権が併存する場合の原則的ルールを示す。実務上、手形が「支払のため」に授受された場合は手形の先行使が必要となるが、本判例は「債務者のみが手形義務者」である場合には「担保のため」と推定され、選択行使が可能になるという基準を示しており、答案上は債務者の範囲と特約の有無を確認して本枠組みを適用する。
事件番号: 昭和41(オ)1204 / 裁判年月日: 昭和43年12月24日 / 結論: 棄却
無権限者が機関方式により手形を振り出し本人名義の手形を偽造した場合であつても、右の手形振出が本人から付与された代理権の範囲をこえてなされたものであり、かつ、手形受取人において右無権限者が本人名義で手形を振り出す権限ありと信ずるにつき正当の理由がある等原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとにおいては、本人は、民法第一…