一 原判決(後記)の確定した事実関係のもとにおいては、上告人(養子)の行為は、旧民法第八六六条第一号の「虐待」にあたるものと解するのが相当である。 二 離縁の訴において、当事者が訴提起後に生じた事実を請求原因に追加し、裁判所が右追加された事実に基き離縁の判決をすることは、旧民法第八六六条の禁ずるところではない。
一 旧民法第八六六条第一号の「虐待」にあたる一事例 二 旧民法第八六六条と訴提起後に生じた事実を原因として離縁判決をすることの可否
旧民法866条1号,旧民法866条,人事訴訟手続法8条(26条)
判旨
裁判上の離縁原因としての「虐待」とは、親子間の道義、人情に反する不当な処置により、他方に多大な精神的苦痛を与える行為を指す。また、離縁の訴え提起後に生じた事実であっても、事実審の口頭弁論終結時までは新たな攻撃方法や請求原因の変更として提出でき、判決の基礎とすることができる。
問題の所在(論点)
①養親の生活基盤を脅かす養子の不当な処置が、民法上の離縁原因である「虐待」に該当するか。②離縁の訴え提起後に生じた事実を、当該訴訟において離縁原因として主張・認定することができるか。
規範
裁判上の離縁原因たる「虐待」は、単なる肉体的苦痛の付与に限られず、社会観念上、子として親に対する道義・人情に反する不当な処置によって精神的苦痛を与える行為を含む。また、離縁の効果を裁判所の形成判決に委ねる趣旨は効果発生の画一明確化にあり、訴訟提起後の新事実を排除するものではない。したがって、事実審の口頭弁論終結時までに生じた新事実は離縁原因として斟酌できる。
重要事実
養親である被上告人(当時76歳)は、争いのある土地建物を家業の中心・生計の根源としていた。養子である上告人は、被上告人に無断で当該物件を担保に入れ、あるいは第三者に売却し、被上告人に明渡しを迫った。さらに、空襲で大破した物件を被上告人が費用を投じて修繕中に、上告人は処分禁止の仮処分を無視して中国人に賃貸し、多数を伴って明渡しを要求し修繕を妨害した。これらの行為の多くは離縁の訴え提起後に発生したものであった。
あてはめ
①について、上告人の行為は、被上告人が生活の根源としている建物を、仮処分決定を無視して第三者に賃貸し、威力を借りて取り上げようとするものであり、訴訟上の対抗手段としても公正を欠く。これは親に対する道義・人情に反する不当な処置であり、76歳の被上告人に多大な精神的苦痛を与えたといえるため、「虐待」に該当する。②について、人事訴訟においても攻撃防御方法の提出時期に関する民事訴訟の原則が妥当し、事実審の口頭弁論終結に至るまでは新事実の提出や請求原因の変更が可能である。ゆえに、訴訟提起後の事実を基礎として離縁を認めた原審の判断は正当である。
結論
上告人の行為は離縁原因としての「虐待」にあたり、また訴訟提起後の事実を判決の基礎とすることも許されるため、離縁請求を認容した原判決は維持される。
実務上の射程
「虐待」の意義については、現代の814条1項2号の解釈においても同様に、肉体的なものに限らず精神的な困惑や生活基盤の侵害を含めて柔軟に構成する際の論拠となる。手続面では、人事訴訟における事実適示の範囲が口頭弁論終結時まで及ぶことを示す実務上の指針となる。
事件番号: 昭和60(オ)483 / 裁判年月日: 昭和60年12月20日 / 結論: 破棄自判
農業及び祭祀の承継を目的としてされた成年者を養子とする縁組において、会社に勤務しつつ農作業に従事することを了解していた養子の農業の手伝い方などをめぐつて養父母と養子との間に感情的対立が昂じ、互いに暴言やいやがらせの言動が重なり、養子が養父母に対し押し倒したり足蹴にするなどの暴行を加えたことがあるなど判示の事実関係がある…