債務者が期限に債務を弁済しないときは、債権者は、債務者に対する一方的意思表示によつて、代物弁済として債務者所有の抵当不動産を取得すべき旨の契約をした場合に、右意思表示前、代物弁済による所有権移転登記手続がなされても、債権者がその後右意思表示をして所有権が移転すれば、その登記は有効となる。
所有権移転登録記後に所有権が移転された場合の登記の効力。
民法177条
判旨
代物弁済予約に基づく完結権の行使(選択の意思表示)は、原則として登記前になされるべきであるが、登記後になされた場合であっても、その意思表示によって登記と実体的な権利関係が合致するに至る以上、当該登記は有効となる。
問題の所在(論点)
代物弁済予約に基づく所有権移転登記において、登記の実行時に予約完結権の行使(選択の意思表示)が未了であった場合、その後に意思表示がなされることで当該登記は有効となるか。
規範
代物弁済の予約に基づく所有権移転登記において、予約完結権の行使(代物弁済を選択する意思表示)が登記の実行より後になされた場合であっても、その後に意思表示が行われれば、当該登記は実体上の権利関係と一致するに至るため、有効な登記として取り扱うべきである。
重要事実
債権者(被上告人)は、債務者との間で代物弁済の予約を締結し、予約完結権(代物弁済選択権)を有していた。被上告人は昭和14年3月20日に本登記を申請しようとしたが、書類不備を理由に却下された。その後、関係者を介して書類を整え、同年5月16日には内容証明郵便により代物弁済選択の意思表示を通知した。債務者(上告人)側は、弁済期の延期があったことや、登記時に意思表示が先行していなかったことを理由に、本件登記の無効を主張して争った。
事件番号: 昭和33(オ)734 / 裁判年月日: 昭和35年6月2日 / 結論: 破棄差戻
金融業者が、金二〇万円を、弁済期一ケ月後、利息一ケ月九分の約で貸し付けるにあたり、借主が右債務の支払を怠つたときは、貸主はその支払にかえて時価八〇万円を下らない不動産の所有権を取得することができる旨代物返済の予約をした場合であつても、貸主が、巨利を博すべくはじめから右不動産を処分する意図をもつて、借主側の窮迫、無経験な…
あてはめ
本件では、登記の申請手続が先行し、その後に内容証明郵便によって代物弁済を選択する意思表示がなされている。代物弁済予約において、所有権移転の効果を確定させる意思表示は本来登記前になされるべきものである。しかし、たとえ意思表示が登記の後になったとしても、その意思表示がなされた時点において、登記の内容と現在の実体的な権利関係(債権者への所有権移転)が合致する。したがって、実体関係との一致を重視する不動産登記制度の趣旨に照らせば、当該登記を無効とする理由はなく、有効なものとして維持されるべきである。
結論
代物弁済選択の意思表示が登記後になされた場合であっても、その登記は有効であり、所有権移転の効果を妨げない。
実務上の射程
実務上、原因行為(完結権行使)と登記の前後が逆転していても、最終的に実体関係と符合すれば登記の有効性を肯定できるという「実体関係への符合」の理論を裏付ける。司法試験においては、物権変動の有効性や登記の効力が争点となる場面で、手続の瑕疵が事後的に治癒される一例として引用可能である。
事件番号: 昭和43(オ)343 / 裁判年月日: 昭和48年1月26日 / 結論: その他
一、債権担保のため債務者所有の不動産につき代物弁済予約形式の契約を締結し、これを原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した債権者は、債務者が弁済期に債務の弁済をしないため予約完結権を行使した場合であつても、目的不動産の換価処分または評価清算前に債務の弁済があつたときは、債務者に対し、右仮登記の抹消登記手続をしなけ…
事件番号: 昭和33(オ)26 / 裁判年月日: 昭和34年7月2日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】売買の予約の成立を認めるためには、その前提となる事実について証拠に基づき合理的に認定する必要があり、供述内容が予約ではなく本契約の成立を指している場合には、予約の成立を認めることはできない。 第1 事案の概要:被上告人(原告)が上告人(被告)から土地200坪を単価140円で購入したと主張し、売買一…
事件番号: 昭和32(オ)1201 / 裁判年月日: 昭和34年6月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務者が元本の一部を弁済したとしても、当然に代物弁済予約を失効させる合意があったとは認められず、また予約完結権を行使し得る状況でこれを行使せず債務の履行を一部受けていたとしても、特段の事情がない限り、それは権利の放棄ではなく履行の猶予と解される。 第1 事案の概要:債権者(被上告人)と債務者(上告…
事件番号: 昭和26(オ)560 / 裁判年月日: 昭和28年11月12日 / 結論: 棄却
一 一抵当権設定契約とともになされた停止条件付代物弁済契約は、特段の事由のないかぎり、代物弁済の予約と解すべきものである。 二 右の場合において、抵当権を実行するか、代物弁済の予約を完結させるかは、債権者の選択に委される。