一 選挙期日に選挙人が投票区のある市町村の区域外に旅行中であるという事由は、その旅行が儀礼等の理由から社会通念上必要な用務のための旅行であるか、当日以外に日程を変更することが著しく困難であるなどの事情が認められる場合に限り、公職選挙法四九条一項二号所定の「やむを得ない用務」のためのものとして不在者投票事由に該当する。 二 選挙管理委員会の委員長が選挙人の申し立てた事由が不在者投票事由に該当するかどうかの審査義務を尽くすことなく不在者投票を認め、投票記載所では実質的に立会人を欠いた状況下で投票がされた例もあるなどのずさんな不在者投票の管理執行手続の下で、全投票者の約一割に当たる一七一三人という多数の選挙人が不在者投票を行い、このうち、選挙人が申し立てた事由が不在者投票事由に該当しないことが明らかであるか又は不在者投票事由に該当すると認めるには足りないにもかかわらず、不在者投票が受理されたものが六六八票にも上ったことに加え、当選者の得票に占める不在者投票の割合が一二・五パーセントで落選者のそれが六・五パーセントであったなど判示の事実関係の下においては、不在者投票の管理執行に関する違法は、不在者投票全体についての公正を疑わしめるに足りるものであって、不在者投票の総数が当選者と落選者との得票差を上回っている以上、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものというべきである。
一 選挙期日に選挙人が投票区のある市町村の区域外に旅行中であるという事由が不在者投票事由に該当する場合 二 不在者投票の管理執行に関する違法が不在者投票全体についての公正を疑わしめるに足りるものであって選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるとされた事例
公職選挙法49条1項,公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令53条1項,公職選挙法施行令56条2項,公職選挙法施行令59条の4第3項,公職選挙法施行規則10条の5別記第13号様式の7
判旨
不在者投票の管理執行に関する一連の違法が、不在者投票の濫用や不正投票の混入を招いた可能性を否定できず、その公正を疑わしめるに足りる場合には、公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」があるものと解される。
問題の所在(論点)
不在者投票の管理執行および開票事務に関する複数の法令違反が、公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるとき」に該当し、選挙を無効とすべきか。
規範
不在者投票制度は例外的な取扱いであり、濫用防止のため要件・手続・様式が厳格に定められている。管理執行手続全般にわたる違法が、不在者投票の濫用や不正投票の混入を招来した可能性を否定し難く、かつ不在者投票の全体についてその公正を疑わしめ、適正に施行されていれば異動が生じたのではないかとの疑念を生じさせる場合には、「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」(公職選挙法205条1項)が認められる。この判断に際しては、事後的に不在者投票事由があると認められる投票が含まれていても、直ちに左右されない。
事件番号: 昭和51(行ツ)57 / 裁判年月日: 昭和51年10月8日 / 結論: 破棄自判
一、不在者投票をしようとする選挙人は、不在者投票用紙等の交付を使者によつて請求することも許される。 二、選挙管理委員会が使者による不在者投票用紙等の交付請求を受理するにあたつてなすべき右使者と称する者が真実の使者であるかどうかの確認は、真実の使者であることを疑うに足りる特段の事情のない限り、その使者と称する者の選挙人何…
重要事実
本件市長選挙において、(1)市選管が不在者投票の事由(旅行等の要件)を審査せず、宣誓書の不備も看過して漫然と受理し、該当性が不明なまま受理された投票が612票に及んだ。(2)立会人が不在のまま職員が代行署名した事例や、選管の記名押印がない封筒が使用された事例も存在した。(3)不在者投票の総数は1,713票で、当選者と落選者の得票差は958票であった。また、開票手続でも投票者数と投票数が一致せず、後から投票録を訂正させるなど、事務処理が著しく厳正を欠いていた。
あてはめ
まず、旅行等の不在者投票事由は、社会通念上必要な用務や日程変更が困難な場合に限られるが、選管は説明を求めず漫然と受理しており、審査義務(法49条1項等)を尽くしていない。このような管理執行は法の趣旨を没却する「極めてずさんなもの」であり、受理された不透明な投票が668票に上る。この数は当選差(958票)を下回るものの、管理全般の違法性は不在者投票全体の公正を疑わしめる。さらに、開票手続の不透明さも併せれば、選挙結果に疑念を生じさせるに十分であるから、結果に異動を及ぼすおそれがあると評価できる。
結論
本件選挙の管理執行および開票事務に関する違法は、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるものといえるため、当該選挙は無効とされる。
実務上の射程
選挙無効訴訟において、個別の無効票の積み上げだけでは当選差に届かない場合であっても、管理体制全般のずさんさ(構造的な違法性)によって選挙の公正さが根本から損なわれていると判断されれば、205条1項の要件充足を肯定できることを示した重要な射程を持つ。
事件番号: 昭和36(オ)151 / 裁判年月日: 昭和36年6月9日 / 結論: 棄却
一 不在者投票事務に従事する者を不在者投票に立ち会わせることは違法とはいえない。 二 不在者投票に立ち会つた者が投票用封筒の裏面に署名せず選挙事務補助者に記入させた違法があつたからといつて、それだけで選挙を無効とすべきではない。
事件番号: 昭和27(オ)952 / 裁判年月日: 昭和28年3月19日 / 結論: 棄却
所論の不在投票用紙及び投票用封筒を交付するに際し選挙人名簿又は抄本と対照しなかつたという事実は原審も認めているけれども、しかし原判決の認定するところによれば、予め選挙人名簿に基き作成した投票所入場券を各地区の事情にもつとも通ずる駐在員をして選挙人名簿の抄本と対照して予め選挙人に交付してあり、不在者投票用紙及び投票用封筒…
事件番号: 平成1(行ツ)167 / 裁判年月日: 平成2年4月12日 / 結論: 棄却
不在者投票の立会人が、立会いをしつつ併せて不在者投票事務の補助執行に従事していたため、立会人の監視機関としての役割を十分に果たすことができない状態にあったときは、その間にされた不在者投票は、公職選挙法四九条一項同法施行令五六条一項、二項の規定に違反した違法のものというべきである。
事件番号: 昭和44(行ツ)2 / 裁判年月日: 昭和45年7月16日 / 結論: 棄却
選挙人にあらかじめ配布された入場券が住所不明として返戻された場合において、当該選挙人であるとして入場券を持参しない者が投票に来たときは、投票事務従事者において「その理由をただし」、また、本人であることの確認には生年月日の対照をもつてすることが、選挙事務の取扱いとして至当というべきであるが、これを欠いたからといつて、その…