納税者が、三箇年にわたり、株式等の売買による多額の雑所得を申告すべきことを熟知しながら、確定的な脱税の意思に基づき、顧問税理士の質問に対して右所得のあることを否定し、同税理士に過少な申告を記載した確定申告書を作成させてこれを提出したなど判示の事実関係の下においては、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在しないとしても、右各確定申告は、国税通則法六八条一項所定の重加算税の賦課要件を満たす。
確定的な脱税の意思に基づき顧問税理士に株式等の売買による多額の雑所得のあることを秘匿して過少な申告を記載した確定申告書を作成させたことなどにより所得税の確定申告が重加算税の賦課要件を満たすとされた事例
国税通則法68条1項,税理士法1条,税理士法41条の3
判旨
国税通則法68条1項の重加算税の賦課には、過少申告行為とは別に隠ぺい・仮装と評価すべき行為が必要であるが、当初から所得を過少に申告する意図を有し、それを外部からもうかがい得る特段の行動をした場合には同要件を満たす。税務の専門家である税理士に対し、虚偽の回答をして所得を秘匿する行為は、この「特段の行動」に該当する。
問題の所在(論点)
国税通則法68条1項にいう「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」た場合に当たるというためには、二重帳簿の作成や証拠書類の破棄といった積極的な作為が必要か。特に、税理士に対して虚偽の事実を告知して過少な申告書を作成させた行為が、重加算税の賦課要件を満たすかが問題となる。
規範
国税通則法68条1項の重加算税は、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科すことで悪質な納税義務違反を防止する制度である。そのため、単なる過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい又は仮装と評価すべき行為が存在することを要する。もっとも、積極的な隠匿行為(架空名義利用や資料隠匿等)がなくとも、納税者が当初から所得を過少申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上で過少申告を行った場合には、同項の賦課要件を満たすと解すべきである。
事件番号: 平成5(行ツ)133 / 裁判年月日: 平成6年11月22日 / 結論: 破棄自判
金融業者が、正確な所得金額を把握しながら、三年間にわたり真実の所得金額の約三、四パーセントにすぎない額のみを所得金額として記載した白色申告による確定申告書を提出し、その後の税務調査に際しても、過少の店舗数や利息収入金額を記載した内容虚偽の資料を提出し、所得金額を少額ずつ増加した修正申告を繰り返した上、その後の最終修正申…
重要事実
上告人は、3年間にわたり多額の株式売買所得(雑所得)を得ており、課税要件も熟知していたが、これを納税するつもりがなく計算もしていなかった。確定申告にあたり、顧問税理士から株式取引の有無について何度も質問され、資料提示を求められたが、上告人は確定的な脱税の意思に基づき、「所得はない」と嘘の回答をして資料を全く示さなかった。その結果、税理士に実態と異なる過少な申告書を作成させ、これを提出した。なお、架空名義の使用や隠し預金口座の開設などは行っていなかった。
あてはめ
上告人は多額の所得があることを知りながら、確定的な脱税の意思に基づき、あえて申告書に記載しなかった。税理士は独立した公正な立場で適正な納税を実現する使命を負う専門家(税理士法1条)であり、単なる履行補助者ではない。そのような専門家から所得の有無を問われ、資料提示を求められたにもかかわらず、虚偽の回答をして所得を秘匿し、資料提供を拒絶した行為は、単なる申告漏れを超えた「当初からの過少申告の意図」を「外部からもうかがい得る特段の行動」に当たると評価できる。したがって、架空名義の利用等の積極的な工作がなくても、隠ぺい・仮装に該当する。
結論
上告人の行為は国税通則法68条1項所定の重加算税の賦課要件を満たす。したがって、本件賦課決定処分を妥当とした原審の判断は正当である。
実務上の射程
本判決は、重加算税の賦課において「隠ぺい・仮装」の意義を広げ、「特段の行動」があれば足りるとしたリーディングケースである。答案上は、まず隠ぺい・仮装が過少申告行為と別個に必要であることを示しつつ、積極的な偽装工作がない事案でも、税理士への虚偽答弁などの「外部からうかがい得る特段の行動」を事実認定から拾い、納税者の主観的意図と結びつけて論じる際に用いる。
事件番号: 平成16(行ヒ)86 / 裁判年月日: 平成18年4月25日 / 結論: その他
1 納税申告手続を委任された税理士が納税者に無断で隠ぺい,仮装行為をして過少申告をした場合において,納税者が同税理士を信頼して適正な申告を依頼し,納税資金を交付したにもかかわらず,同税理士が上記行為をして納税資金を着服したものであり,納税者において同税理士が隠ぺい,仮装行為を行うことを容易に予測し得たということはできず…
事件番号: 平成17(行ヒ)9 / 裁判年月日: 平成18年4月20日 / 結論: その他
1 納税申告手続を委任された税理士が隠ぺい,仮装行為をして過少申告をした場合,納税者において当該税理士が上記行為を行うこと若しくは行ったことを認識し,又は容易に認識することができ,法定申告期限までにその是正や過少申告防止の措置を講ずることができたにもかかわらず,納税者においてこれを防止せずに上記行為が行われ,それに基づ…
事件番号: 昭和56(行ツ)139 / 裁判年月日: 昭和58年10月27日 / 結論: 棄却
国税通則法六八条一項による重加算税の賦課決定に対する審査請求において、同項所定の加重事由は認められないが、同法六五条所定の過少申告加算税の賦課要件の存在が認められる場合には、国税不服審判所長は、右賦課決定のうち過少申告加算税額に相当する額を超える部分のみを取り消すことができる。
事件番号: 昭和59(行ツ)302 / 裁判年月日: 昭和62年5月8日 / 結論: 棄却
国税通則法六八条一項の重加算税を課し得るためには、納税者が申告に際し過少申告を行うことの認識を有していることは必要でない。