一 債権者甲の債務者乙に対する債権を担保するために所有不動産に根抵当権を設定した丙が甲との間に民法五〇四条に規定する担保保存義務を免除する旨の特約をしていた場合に、甲が、右担保に追加して乙所有の不動産に設定を受けた根抵当権を放棄した上、丙に対し右特約の効力を主張することは、乙から設定を受けた右追加担保が甲の乙に対する追加融資の額に見合うものであり、甲が乙からその弁済を受けるのに伴って右追加担保を放棄したものであるなど判示の事実関係の下においては、信義則に違反せず、権利の濫用にも当たらない。 二 債権者甲の債務者乙に対する債権を担保するために所有不動産に根抵当権を設定した丙が甲との間に民法五〇四条に規定する担保保存義務を免除する旨の特約をしていた場合に、甲が乙から設定を受けた担保を喪失し、又は減少させた時に右特約の効力により丙について同条による免責の効果が生じなかったときは、その後丙から右不動産の譲渡を受けた丁は、甲に対し、同条による免責の効果を主張することはできない。
一 債権者が物上保証人に対して担保保存義務免除特約の効力を主張することが信義則に違反せず権利の濫用にも当たらないとされた事例 二 担保保存義務免除特約の効力により物上保証人について民法五〇四条による免責の効果が生じなかった場合にその後物上保証人から担保物件の譲渡を受けた第三取得者が債権者に対して免責の効果を主張することの可否
民法1条,民法91条,民法504条
判旨
担保保存義務を免除する特約は、金融取引上の通念から見て合理性を有し、代位の期待を不当に奪うものでない限り有効であり、特約により免責が生じない以上、その後の第三取得者も免責を主張できない。
問題の所在(論点)
1.担保保存義務免除特約の効力を主張することが信義則に反し許されない場合があるか。 2.物上保証人との間で免責の効果が生じていない場合、その後の第三取得者は独自に民法504条による免責を主張できるか。
規範
1.債権者の担保保存義務(民法504条)を免除する特約は、原則として有効である。ただし、①契約締結時の事情、②取引の経緯、③担保喪失時の状況等を総合し、債権者の行為が金融取引上の通念から見て合理性を有し、保証人等の正当な代位の期待を奪うものといえないときは、特約の主張は信義則(1条2項)に反せず有効である。 2.担保喪失時に特約の効力により免責の効果が生じていなかった場合、その後に担保物件を譲り受けた第三取得者は、免責が生じていない状態の負担がある物件を取得したことになるため、改めて同条による免責を主張することはできない。
事件番号: 平成5(オ)1713 / 裁判年月日: 平成9年6月5日 / 結論: 破棄自判
一個の不動産の全体を目的とする抵当権が設定されている場合には、右抵当不動産の共有持分を取得した第三者が抵当権の滌除をすることはできない。
重要事実
物上保証人Dは、債権者(被上告人)との間で、担保保存義務を免除する本件特約を付して根抵当権を設定した。その後、債権者は主債務者Eから追加担保を得たが、追加融資分の弁済を受ける際、Eの要請(物件売却への協力)に応じ、Dの相続人らの承諾を得ないまま本件追加担保を放棄した。Dの相続人から本件不動産を取得した第三取得者(上告人)が、民法504条による免責を主張して登記抹消を請求した。
あてはめ
1.被上告人の融資は当初担保と追加担保の価値に相応して分割実行されており、追加担保の放棄は追加融資分の弁済に伴うものであった。また、債務者Eの売却協力要請に基づき、異議を述べさせない旨の念書も得ている。これらは金融取引上の通念に照らし合理性があり、D側の正当な代位の期待を奪うとはいえないため、特約の主張は信義則に反しない。 2.担保放棄時において特約に基づきD側に免責が生じなかった以上、その後の第三取得者である上告人は、免責されていない状態の根抵当権が付着した不動産を承継したにすぎない。
結論
本件特約の主張は信義則に反せず有効であり、D側に免責が生じていない以上、第三取得者である上告人も民法504条による免責を主張することはできない。
実務上の射程
担保保存義務免除特約の有効性を前提としつつ、信義則による制約を判断する具体的考慮要素(取引の合理性、代位の期待の有無)を示した点に実務上の意義がある。また、504条による免責の成否は「担保喪失時」を基準に確定し、第三取得者はその効果を承継するにとどまるという判例法理を明確にしている。
事件番号: 平成6(オ)2325 / 裁判年月日: 平成7年3月10日 / 結論: 棄却
物上保証人は、債務者の承認により被担保債権について生じた消滅時効中断の効力を否定することができない。
事件番号: 平成3(オ)1334 / 裁判年月日: 平成5年6月25日 / 結論: 破棄自判
破産手続が終結した後における破産者の財産に関する訴訟については、当該財産が破産財団を構成し得るものであったとしても、追加配当を予定すべき特段の事情がない限り、破産管財人は被告適格を有しない。
事件番号: 昭和44(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和45年2月24日 / 結論: 棄却
甲は、乙が代表者である丙組合と丁会社との紛争解決などのために、戊に合計九〇万円を融資し、その債務担保のため本件土地につき、戊から譲渡担保の設定を受け、一方、乙は、右のような事情から右担保権を取得した甲のために、その権利行使の障害となる根抵当権を自ら放棄したものであるなど判示事実関係のもとにおいては、乙は、その後戊との間…
事件番号: 平成5(オ)1788 / 裁判年月日: 平成8年7月12日 / 結論: 破棄差戻
物上保証人に対する不動産競売において、被担保債権の時効中断の効力は、競売開始決定正本が債務者に送達された時に生ずる。