一個の不動産の全体を目的とする抵当権が設定されている場合には、右抵当不動産の共有持分を取得した第三者が抵当権の滌除をすることはできない。
一個の不動産の全体を目的とする抵当権が設定されている場合における抵当不動産の共有持分の第三取得者による滌除の可否
民法249条,民法378条
判旨
不動産の全体を目的とする抵当権が設定されている場合において、当該不動産の共有持分を取得した第三者が抵当権の滌除(現・抵当権消滅請求)をすることは認められない。
問題の所在(論点)
不動産全体を目的とする抵当権が設定されている場合において、その不動産の「共有持分」を取得した第三取得者が、当該持分についてのみ抵当権の滌除(抵当権消滅請求)をすることができるか。
規範
滌除(抵当権消滅請求)制度は、抵当権者に不動産の適正な交換価値に相当する金員の取得を確保させつつ、第三取得者に抵当権を消滅させる権能を与えて両者の利害を調和させるものである。一個の不動産全体に抵当権が設定されている場合、共有持分の取得者による滌除を認めれば、一体として把握されていた交換価値が分断され、合算しても元の価値に及ばなくなるのが通常であり、抵当権者を害するため許されない。
重要事実
建物はD・Eら4名の共有であり、建物全体を目的とするF信用金庫の根抵当権、およびDの持分のみを目的とするGプロダクツ(上告人が承継)の根抵当権が設定されていた。被上告人はDおよびEの各持分を取得した第三取得者であり、民法383条所定の書面を各根抵当権者に送達して滌除の意思表示をした。被上告人は、この滌除によって根抵当権が消滅したと主張し、登記の抹消を求めた。
事件番号: 平成6(オ)1835 / 裁判年月日: 平成7年6月23日 / 結論: 棄却
一 債権者甲の債務者乙に対する債権を担保するために所有不動産に根抵当権を設定した丙が甲との間に民法五〇四条に規定する担保保存義務を免除する旨の特約をしていた場合に、甲が、右担保に追加して乙所有の不動産に設定を受けた根抵当権を放棄した上、丙に対し右特約の効力を主張することは、乙から設定を受けた右追加担保が甲の乙に対する追…
あてはめ
本件建物には、F信用金庫を根抵当権者とする建物「全体」を目的とした根抵当権が設定されている。被上告人はD・Eの「持分」の取得者にすぎない。このような持分取得者による滌除を認めると、F信用金庫が一体として把握していた建物の交換価値を分断することになり、債権者の利益を不当に害する結果となる。したがって、被上告人による本件滌除は制度の趣旨に反し、無効であるといえる。
結論
不動産全体を目的とする抵当権の共有持分取得者による滌除は許されず、本件根抵当権は消滅しないため、抹消登記請求は棄却される。
実務上の射程
現行法下の抵当権消滅請求(379条以下)においても、本判例の論理(交換価値の分断禁止)は維持されている。答案上は、抵当権消滅請求の可否が問われる場面で、目的物の範囲と取得した権利の範囲を対比させ、債権者の把握する交換価値を害するか否かの文脈で本規範を用いる。
事件番号: 昭和56(オ)817 / 裁判年月日: 昭和59年4月24日 / 結論: その他
共有者の一部の者の名義に所有権移転登記又は所有権移転請求権仮登記がされている場合に、他の共有者が妨害排除として右一部の者に対して請求することができる登記手続は、自己の持分についての一部抹消(更正)登記手続に限られる。
事件番号: 昭和38(オ)412 / 裁判年月日: 昭和39年8月13日 / 結論: 棄却
不動産所有権を取得したが本登記手続を経ない仮登記権利者は、右不動産上の抵当権者に対し被担保債務が弁済されたことを理由に当該抵当権設定登記の抹消登記手続を請求し得ない。
事件番号: 平成2(オ)1474 / 裁判年月日: 平成6年5月12日 / 結論: 棄却
甲建物について、滅失の事実がないのにその旨の登記がされて登記用紙が閉鎖された後、別の乙建物として表示の登記及び所有権保存登記がされた場合、登記を経由していた甲建物の根抵当権者は、乙建物の所有名義人に対し乙建物の表示の登記及び所有権保存登記の抹消登記手続を、甲建物の所有名義人であった者に対し甲建物の滅失の登記の抹消登記手…
事件番号: 昭和35(オ)234 / 裁判年月日: 昭和37年10月5日 / 結論: その他
甲乙丙三棟の建物を所有する債務者が、未登記の甲建物の所有権保存登記をなすべく司法書士に委任したところ、甲建物を主たる建物、乙丙建物を付属建物と表示する登記がなされ、次いで、債権者の手により甲乙丙建物を目的物とする抵当権設定登記が経由されたのに対し、抵当権設定契約の不存在を理由として右抵当権設定登記の抹消登記手続を請求す…