甲建物について、滅失の事実がないのにその旨の登記がされて登記用紙が閉鎖された後、別の乙建物として表示の登記及び所有権保存登記がされた場合、登記を経由していた甲建物の根抵当権者は、乙建物の所有名義人に対し乙建物の表示の登記及び所有権保存登記の抹消登記手続を、甲建物の所有名義人であった者に対し甲建物の滅失の登記の抹消登記手続をそれぞれ請求することができる。
甲建物について滅失の事実がないのにその旨の登記がされた後に別の乙建物として表示の登記等がされた場合における甲建物の根抵当権者による右各登記の抹消請求の可否
民法369条,不動産登記法93条,不動産登記法93条ノ11
判旨
建物が滅失していないのに滅失登記がなされ、さらに別個の建物として重畳的に保存登記等がなされた場合、抵当権者は妨害排除請求として、後記登記の抹消および滅失登記の抹消を請求できる。
問題の所在(論点)
建物が不実の滅失登記により閉鎖され、さらに重畳的に別個の建物として登記された場合において、抵当権者は物権的妨害排除請求として、後記不実登記の抹消および滅失登記の抹消を請求できるか。
規範
登記された建物について、滅失の事実がないのに滅失登記がなされ登記用紙が閉鎖された場合、当該建物上の抵当権は公示されなくなるため、滅失登記は抵当権に対する妨害となる。また、当該建物につき別個の建物として表示・保存登記がなされた場合、直ちに滅失登記を抹消しようとしても二重登記を招くため申請が却下される。したがって、これら一連の登記は抵当権に対する妨害を構成し、抵当権者は物権的妨害排除請求として各登記の抹消を請求できる。
重要事実
被上告人は、上告人らが所有する区分所有建物(丙・丁建物)に対し共同根抵当権を有していた。これら建物について、区分所有の消滅という事実がないにもかかわらず、これを原因とする滅失登記がなされ、登記用紙が閉鎖された。その結果、被上告人の根抵当権は公示されない状態となった。さらに、上告会社を所有者とする別個の建物として表示の登記および所有権保存登記がなされた。そこで、被上告人は根抵当権に基づき、上告会社に対し後記登記の抹消を、上告人らに対し滅失登記の抹消を請求した。
事件番号: 昭和42(オ)1472 / 裁判年月日: 昭和44年2月13日 / 結論: 破棄差戻
一個の債権担保のため、甲乙丙不動産につき停止条件付代物弁済契約がされるとともに、所有権移転請求権保全の仮登記がされている場合において、債権者が甲不動産を代物弁済により所有権を取得し、それに基づいて所有権移転登記を経由したにすぎないときは、その後乙不動産につき所有権移転請求権保全の請求権を譲り受けた者がした代物弁済による…
あてはめ
まず、丙・丁建物は滅失していないにもかかわらず、不実の滅失登記により登記用紙が閉鎖され、被上告人の根抵当権は公示を失っている。これは抵当権に対する直接の妨害といえる。次に、上告会社名義でなされた新たな表示・保存登記について検討するに、この登記が存在する限り、仮に滅失登記を抹消して旧登記を回復させようとしても、実体法上一つの建物に二つの登記が存在する「二重登記」の状態を招くため、不動産登記実務上、抹消申請が却下される。そうであるならば、上告会社名義の新たな登記は、旧登記の回復を阻害するものとして、根抵当権に対する妨害となっていると評価できる。よって、被上告人は妨害の除去として、上告会社に対する後記登記抹消、および上告人らに対する滅失登記抹消の双方を請求しうる。
結論
根抵当権者は、現在の所有名義人に対し後記不実登記の抹消を、滅失時の所有名義人に対し滅失登記の抹消をそれぞれ請求することができる。
実務上の射程
抵当権が「物権」である以上、その優先弁済権の行使を妨げる不実の登記(公示の喪失)に対して妨害排除請求権が認められることを確認した点に意義がある。答案上は、不実の滅失登記だけでなく、二重登記状態の解消が必要な場面において、誰に対してどのような登記抹消を求めるべきかの構成として活用できる。
事件番号: 昭和40(オ)554 / 裁判年月日: 昭和42年9月14日 / 結論: 棄却
甲に対して建物明渡を命じた判決に基づき、当該訴訟の原告乙の単独申請によつてされた右建物の所有権移転登記であつても、右登記が実体的権利関係に合致しているのみならず、甲が右登記義務履行について有する同時履行の抗弁権も消滅しており、かつ、登記当時他に右建物の帰属について利害関係を有する第三者が存在していない場合には、甲は、右…
事件番号: 昭和44(オ)183 / 裁判年月日: 昭和45年7月16日 / 結論: 棄却
旧建物が取りこわされて滅失し、すでに存在せず、同じ土地上に建築されている新建物とは同一性がなく、しかも新建物については、すでに甲名義の保存登記が了されている場合には、甲は旧建物の登記簿上の所有名義人である乙に対して旧建物の滅失登記手続をなすべきことを訴求する利益はないというべきである。
事件番号: 平成8(オ)718 / 裁判年月日: 平成11年11月25日 / 結論: 破棄自判
建築請負人からの注文者に対する請負契約に係る建物の所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟の提起は、右請負代金債権の消滅時効中断事由である裁判上の請求に準ずるものとはいえず、右訴訟の係属中右請負代金について催告が継続していたということもできない。
事件番号: 昭和38(オ)164 / 裁判年月日: 昭和39年5月26日 / 結論: 棄却
登記義務者の意思に基づかない登記であつても、現在の実体的権利関係に符合するものであるかぎり、右意思に基づかないとして、当該登記の抹消登記請求をすることは理由がない。