交通事故の被害者が後遺障害により労働能力の一部を喪失した場合における逸失利益の算定に当たっては、事故後に別の原因により被害者が死亡したとしても、事故の時点で、死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきものではない。
後遺障害による逸失利益の算定に当たり事故後の別の原因による被害者の死亡を考慮することの許否
民法416条,民法709条
判旨
交通事故の被害者が後遺障害により労働能力の一部を喪失した後、事故と無関係な原因で死亡しても、事故時に近い将来の死亡が客観的に予測されていた等の特段の事情がない限り、死亡の事実は就労可能期間の認定において考慮されない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく後遺障害逸失利益の算定において、事実審口頭弁論終結前に被害者が事故とは無関係な原因で死亡した場合、その死亡の事実を就労可能期間の認定において考慮すべきか(民法709条に基づく損害賠償額の算定範囲)。
規範
後遺障害による逸失利益の算定にあたっては、その後に被害者が死亡したとしても、交通事故の時点で、その死亡の原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、右死亡の事実は就労可能期間の認定上考慮すべきではない。労働能力喪失による損害は事故時に一定の内容として発生し、その後の事由で消長を来すものではないからである。
重要事実
被害者Dは、交通事故により脳挫傷等の傷害を負い、知能低下等の後遺障害(症状固定)を残した。Dは事故当時、大工として勤務していたが、症状固定後も就労不能な状態にあり、自宅付近の海で貝を探るなどしていたところ、事故から約1年半後、海中での心臓麻痺により死亡した(本件死亡事故)。Dの相続人(上告人)が、就労可能年齢までの逸失利益を請求した事案である。
あてはめ
Dは交通事故に起因する本件後遺障害により労働能力を喪失し、これによる損害は事故時に発生している。本件死亡事故は海中での心臓麻痺という偶発的な事由によるものであり、交通事故の時点でDに「近い将来における死亡が客観的に予測されていた」といった特段の事情は認められない。したがって、Dが死亡したという後発的事実を理由に、就労可能期間を短縮して損害額を減額することは、衡平の理念に反し許されないといえる。
結論
Dの死亡という事実は就労可能期間の認定において考慮されず、就労可能年齢(67歳)までの全期間について逸失利益を算定すべきである。
実務上の射程
被害者が「死亡」した場合(即死・死亡後遺症)の逸失利益については、別個の判例(最判平8.4.25等)により生活費控除等の処理がなされるが、本判例は「後遺障害」事案において後発的に別原因で死亡した場合の射程を画定した。答案では、被害者の生存を前提とした損害(後遺障害逸失利益)が事故時に固定することを強調する際に用いる。
事件番号: 平成10(オ)583 / 裁判年月日: 平成11年12月20日 / 結論: その他
交通事故の被害者が事故のため介護を要する状態となった後に別の原因により死亡した場合には、死亡後の期間に係る介護費用を右交通事故による損害として請求することはできない。 (補足意見がある。)