一 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合、最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては、死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきものではない。 二 交通事故の被害者が事故後に死亡した場合、後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たっては、事故と被害者の死亡との間に相当因果関係がある場合に限り、死亡後の生活費を控除することができる。
一 交通事故の被害者がその後に第二の交通事故により死亡した場合に最初の事故の後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たり被害者の死亡を考慮することの許否 二 交通事故の被害者が事故後に死亡した場合に後遺障害による財産上の損害の額の算定に当たり死亡後の生活費を控除することの許否
民法416条,民法709条
判旨
後遺障害による逸失利益の算定において、事故後の死亡は特段の事情がない限り就労可能期間に影響せず、死亡との相当因果関係がない限り生活費控除も認められない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく後遺障害逸失利益の算定において、①被害者が症状固定後に別原因で死亡した場合に死亡後の期間を就労可能期間から除外すべきか、②死亡後の生活費を控除すべきか。
規範
1. 労働能力の一部喪失による逸失利益算定において、事故時に近い将来の死亡が客観的に予測される等の特段の事情がない限り、その後の死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮しない。これは死亡原因の如何を問わない。 2. 事故と死亡との間に相当因果関係がない場合、死亡後の生活費を控除することはできない。生活費の支出を免れたことは事故と同一原因による利得とはいえず、損益相殺の法理が妥当しないためである。
重要事実
被害者Dは、上告人の運転する貨物自動車との衝突を回避しようとして転倒し(本件事故)、後遺障害を負って症状が固定した。その後、Dは本件事故とは無関係な別件の交通事故により死亡した。Dの相続人である被上告人らは、本件事故に基づく後遺障害による10年間の労働能力一部喪失を理由として逸失利益の賠償を請求した。これに対し、死亡後の期間を就労可能期間に算入できるか、また死亡後の生活費を控除すべきかが争点となった。
あてはめ
1. 本件事故当時、Dに死亡の原因となる具体的事由が存在した事実はなく、別件事故による死亡という事後的な事情は、就労可能期間の算定に影響を与える「特段の事情」には当たらない。したがって、死亡にかかわらず当初予定された就労可能期間を基礎とすべきである。 2. 本件事故と別件事故による死亡との間には相当因果関係が認められない。そのため、死亡により生活費の支出を免れたとしても、それは本件事故と同一原因による利益とは評価できず、損益相殺(またはその類推適用)による生活費控除は認められない。
結論
Dの死亡という事実は就労可能期間の算定上考慮されず、また死亡後の生活費を控除することもできないため、上告人の責任を限定した原審の判断は正当である。
実務上の射程
後遺障害逸失利益の算定基準時(事故時)を重視する立場を明確にしたものであり、死亡逸失利益で生活費控除がなされることとの均衡よりも、被害者救済と二重の事故における賠償の連続性を重視している。答案上は、事故後の死亡という後発的事情を損害算定に反映させるべきかの論証において、規範を提示した上で当てはめる。
事件番号: 昭和58(オ)128 / 裁判年月日: 昭和62年7月10日 / 結論: 破棄差戻
労働者災害補償保険法による休業補償給付若しくは傷病補償年金又は厚生年金保険法(昭和六〇年法律第三四号による改正前のもの)による障害年金は、被害者の受けた財産的損害のうちの積極損害又は精神的損害から控除すべきでない。