一 昭和四九年に普通河川からのいっ水による水害が生じたが、右河川を管理する市においては、水害防止のための抜本的対策としては雨水排除を目的の一つとする公共下水道整備計画につき建設大臣の認可を受けた上これを実行中であり、また、当面の対策としては昭和四二年以降毎年しゅんせつ工事などを行ってきたものであるところ、右河川は、雨水排除のための自然的条件に恵まれておらず、昭和四〇年代の急激な宅地開発により流域の土地の保水機能が減退し、いっ水による水害発生の可能性が増大したもので、河川の管理における諸制約を考慮すると市が安全性を速やかに確保することは困難であり、過去に発生した水害被害は住民の生命に危険を及ぼしたり大規模な財産的損害を発生させたりするほどのものではなく、当時の我が国においては流域の宅地化によりかんがい用水路から市街地の排水路に変容した右河川のような普通河川については改修計画の策定も本格的な改修工事の実施もされていないのが通常であり、右公共下水道整備計画の策定時期、内容、実施状況に不合理な点はないなど判示の事実関係の下においては、右河川の管理について瑕疵があったということはできない。 二 水害発生の時点において既に設置済みの河川管理施設がその予定する安全性を有していなかったという瑕疵があるか否かは、右施設設置の時点における技術水準に照らして、右施設が、その予定する規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性を備えているかどうかによって判断すべきである。
一 普通河川からのいっ水によって生じた水害につき河川管理の瑕疵がないとされた事例 二 設置済みの河川管理施設の瑕疵の有無の判断基準
国家賠償法2条1項
判旨
河川等の公の営造物の管理の瑕疵は、諸制約の下での同種同規模の河川等の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えているかにより判断すべきであり、普通河川や下水道整備計画中の水路についても同様の基準が適用される。
問題の所在(論点)
河川法が適用されない普通河川や、下水道としての整備計画が進行中の都市排水路において、国家賠償法2条1項の「設置又は管理の瑕疵」の有無を判断する基準は、通常の河川(多摩川判決等)と同様の「過渡的な安全性」の枠組みによるべきか。また、改修済みの施設(パラペット)に欠陥がある場合の瑕疵の判断基準はどうあるべきか。
規範
国家賠償法2条1項にいう「瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいう。河川管理においては、財政的・時間的・技術的・社会的制約が存在するため、その安全性は、原則として右諸制約の下で施行されてきた治水事業の段階に対応するもので足りる。具体的には、過去の水害規模、発生頻度、自然的・社会的条件、改修の緊急性等の諸般の事情を総合考慮し、同種同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えているか否かを基準とする。この基準は、河川法が適用されない普通河川や、都市排水路としての下水道整備計画中の水路にも等しく適用される。
重要事実
神奈川県横須賀市内の普通河川である吉井川および二級河川である平作川において、大雨により床上浸水被害が発生した。吉井川は急激な宅地化により保水機能が減退し、水害が頻発していた。横須賀市は抜本的対策として、市中心部から順次下水道整備計画を進め、本件地域についても整備認可を得て用地買収を開始していたが、完成前に本件水害に至った。また、平作川には漁業等の便宜のためパラペット(防潮壁)に開口部が存在し、遮断板による閉鎖運用が予定されていたが、本件当時は閉鎖された形跡がなかった。
あてはめ
吉井川については、自然条件の劣悪さや急激な宅地化による水害リスク増大に対し、市が下水道整備計画を合理的な順序で進めており、本件地域も認可を得て着工準備中であった。本件以前の被害も生命を脅かすほどの大規模なものではなく、当時の普通河川の管理水準に照らせば、管理の一般水準や社会通念に反するとはいえず、瑕疵は認められない。平作川のパラペットについては、既に設置済みの施設であるから、設置時の技術水準に照らし、予定する規模の洪水に対し安全性を備えていたか否かを検討すべきである。もっとも、本件では水位が開口部に達していなかったため、いずれにせよ因果関係を欠く。
結論
吉井川および平作川の管理に瑕疵があったとは認められず、国家賠償責任は否定される。上告棄却。
実務上の射程
河川の種類(一級・二級・普通河川)を問わず、また下水道としての性質を併せ持つ水路であっても、治水・排水管理の瑕疵については大東水害訴訟・多摩川水害訴訟の判例法理(諸制約を考慮した相対的安全性)が妥当することを明示したものである。ただし、既に設置済みの工作物(パラペット等)に具体的な欠陥がある場合は、特段の制約を考慮せず、設置時の技術水準に基づく具体的安全性を問うべきであるとする点に注意が必要である。
事件番号: 昭和63(オ)791 / 裁判年月日: 平成2年12月13日 / 結論: 破棄差戻
一 工事実施基本計画に準拠して新規の改修、整備の必要がないものとされた河川における河川管理の瑕疵の有無は、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性を備えているかどうかによって判断すべきである。 二 河川の改修、整備がされた後に水害発生の危険の予測が可能となつた場合…
事件番号: 平成1(オ)1628 / 裁判年月日: 平成5年3月26日 / 結論: 棄却
一 河川について中小河川改修事業としての全体計画が確定され、その第一期計画に基づき、対象となった区間につき改修工事が具体的に計画され、その実施に必要な用地の買収交渉が行われていたなど判示の事実関係の下においては、河川管理の瑕疵の有無の判断基準の適用について、右河川は、改修計画に基づいて現に改修中の河川に当たる。 二 中…